2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520679
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
春田 直紀 熊本大学, 教育学部, 准教授 (80295112)
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Keywords | 環境認識語彙 / 南北朝遺文九州編 / 村掟 / 阿蘇郡小国町 / 重要文化的景観 / クリーク農村 / 浦 / 自然災害 |
Research Abstract |
環境認識語彙の分析に向けては、研究補助者1名の協力を得て、『南北朝遺文』九州編を対象とした小地名の網羅的な検出作業が完了した。中世の動植物と「村掟」の資料調査は実施できなかったが、前年度までに収集した公刊資料を用いて、中世の動植物利用と村掟の中近世比較については検討を進めた。現地調査は、熊本県阿蘇郡小国町において環境認識語彙のミクロ分析に関わる調査を実施した。調査内容は、小字地名に関する土地情報と通称地名の収集、林野・耕地の利用変遷についての住民への聞き取りなどで、聞き取り調査では7名、調査成果データの整理は6名の研究補助者の協力を求めた。本調査の成果は、阿蘇の重要文化的景観ならびに世界文化遺産指定に向けてのに礎資料としても活用される予定である。なお、平成23年度は前年度に現地調査を実施した佐賀県神埼市千代田町の調査成果を集成し、『クリーク農村の環境利用とムラの営み』を発刊した。本報告書では住民の自然認識のあり方を、クリークを利用した農業の営みや自然災害への対処法から明らかにしている。本書の作成については、研究補助者4名の協力を得た。 一方、平成23年度はムラの戸籍簿研究会から講演を依頼され、「浦の戸籍簿」の可能性という標題で研究発表をした。本研究は中世の「浦」地名を網羅的に検出し、海辺村落の実態を解明することを目的としたものだが、そのなかで中世の水辺における環境利用の実態と自然観についても考察した。さらに、日本史研究会の依頼により「クリーク農村の自然災害と生業戦略」と題する論文も執筆した(『日本史研究』2012年5月号に掲載予定)。本論文では、近世末期に農事記録を執筆した一農民の災害観にも焦点を当てた。そこで論じた自然災害に対する認識とそれにもとづいた生業戦略の問題は、本研究課題の一環と位置づけることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究の目的」に掲げた(1)環境認識語彙の時代間比較のうちマクロ分析については、データベース構築作業の遅れにより中近世の比較分析がまだ着手できない状況にあるが、ミクロ分析は順調に進展している。目的(2)の中世の動植物観と環境文化は、データ蓄積のある魚介類の検討は進展しているが、資料調査の日程が確保できず、他の動植物のデータ収集と検討が遅れている。目的(3)の中世の自然と時間は、「村掟」の分析からの展開が課題として残る。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究着手時に掲げた研究目的のうち「中世の自然と時間」は研究の進展が見込めなくなってきたため軌道修正し、平成24年度からは「災害観と生業戦略」という課題に振り替えて自然観に関わる歴史研究を推進していくことにしたい。この課題については論文を一編執筆済みであり、残り期間内で研究成果を示すめどは立っている。「環境認識語彙の時代間比較」については南北朝遺文九州編の語彙抽出を終えたので、対象を九州に絞ることで近世語彙との比較研究を進展させる。「動植物観と環境文化」は最近新しい研究成果が相次いでいるので、それを踏まえて進めていく。最終の平成25年度に向けては、研究目的の3課題の成果を統合させる枠組みを構築していきたい。
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Research Products
(2 results)