2011 Fiscal Year Annual Research Report
日韓仏教儀礼の比較史的研究―16・17世紀の薦度儀礼と仏画
Project/Area Number |
21520700
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
西山 克 関西学院大学, 文学部, 教授 (30145825)
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Keywords | 熊野観心十界図 / 朝鮮甘露図 / 明代水陸画 / 水陸会(水陸齋) / 薦度儀礼 / 七如来 / 孤魂 / 絵解き |
Research Abstract |
日本と韓国(朝鮮)における仏教儀礼の比較研究を、16-17世紀に遡って考察することが課題であった。対象とした朝鮮国家は基本的に崇儒抑仏を国是としていたが、後宮の女性や庶民層には依然として仏教が重要な役割を担っていた。特に葬礼については三壇構造をもつ仏教儀礼に、16世紀後半に至って甘露図と呼ばれる、魅力的な霊壇幀が生み出される。この甘露図は、中国の宗教儀礼である水陸会の儀礼空間を荘厳した水陸画を直接のモデルとして成立する。水陸画は仏教・道教・民間信仰の混淆した多様な連幅となっているが、朝鮮の甘露図はその必要なモチーフを1枚の画面に構成し直すことによって成立している。シーンを特化するスペースセルの技法がそれを端的に表しており、その特徴は甘露図の翻案によって成立する日本の熊野観心十界図にまで引き継がれる。 今年度も韓国の寺院・美術館を調査し、甘露図を熟覧し、その社会的な環境を確認する作業を行った。この調査の結果、東北アジアの薦度儀礼を代表するこの三種の絵画の関係性と特徴を、次のように整理することが可能となった。中国明代水陸画は薦度儀礼の場を荘厳し、朝鮮甘露図はその薦度儀礼の場そのものを描き込んで寺院の霊壇を儀礼空間に変換し、熊野観心十界図は薦度儀礼を市井に持ち運び絵解きに供される。 問題なのは、特に朝鮮甘露図が成立した16世紀の社会そのものである。それを問うことは同時に、豊臣秀吉の文禄・慶長の役を契機として熊野観心十界図を成立させた16-17世紀境の日本社会を問うことにもつながる。このテーマについては、本年度の論文「七如来の顕現」で萌芽的に扱ってみたが、なお今後の課題として残っている。
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Research Products
(1 results)