2010 Fiscal Year Annual Research Report
人間の安全保障の観点による上海のユダヤ人難民社会の研究
Project/Area Number |
21520722
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
阿部 吉雄 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 教授 (70231975)
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Keywords | 上海 / ユダヤ人 / 難民 / 人間の安全保障 |
Research Abstract |
本研究計画は1938年~1951年に上海に存在したユダヤ人難民1万7000人のコミュニティについて、我が国の外交政策における基本方針のひとつである「人間の安全保障」の観点から分析し、1990年代以降世界各地で頻発する難民問題(国際強制移動)の予防や解決に資する知見を得ることを目的とする。 平成22年度は、上海のユダヤ人難民社会の代表的な新聞『Shanghai Jewish Chronicle』、および難民の職業教育を取り上げた。 1.上海のユダヤ人難民の大部分が移住した1939年に発行された『Shanghai Jewish Chronicle』紙のうち、保存されている版のすべての記事を分析し、難民たちの関心がヨーロッパの戦況や上海への親族の呼び寄せ、さらにはアメリカへの再移住に集中し、パレスチナにおけるユダヤ人国家の建国というシオニズムの原点には向かわなかったことを明らかにした。また、スポーツ・音楽・演劇等の活動を伝える記事の多さから、ユダヤ人難民たちが上海に生活の根を下ろしつつあることが窺える。 2.「人間の安全保障」を構成する2つの柱「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」のうち、後者を確保するためには、難民たちが上海で就業できることが必要であった。そのため、ヨーロッパで習得した技能を生かせない成人や初等教育を終えた未成年者に対し、英語教育や職業訓練が組織的に行われた。その際、19世紀のロシアで誕生したユダヤ人職業訓練組織(ORT)の導入や職人組合(ギルド)の結成など、ユダヤ人や西欧の伝統を活用した。これにより労賃の安い中国人職人との競争に耐える高いレベルの技能を確保するとともに、出身国の異なるユダヤ人同士の協力により、様々な難民の集団から真のコミュニティへの成長が実現した。
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Research Products
(2 results)