2011 Fiscal Year Annual Research Report
人間の安全保障の観点による上海のユダヤ人難民社会の研究
Project/Area Number |
21520722
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
阿部 吉雄 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 教授 (70231975)
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Keywords | 上海 / ユダヤ人 / 難民 / 人間の安全保障 |
Research Abstract |
本研究計画は1938年~1951年に上海に存在したユダヤ人難民1万7000人のコミュニティについて、我が国の外交政策における基本方針のひとつである「人間の安全保障」の観点から分析し、1990年代以降世界各地で頻発する難民問題の予防や解決に資する知見を得ることを目的とする。 平成23年度は「人間の安全保障」を構成する2つの柱「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」に関連するテーマを取り上げた。 1,上海の提藍橋分局特高股が1944年8月に作成した「外人名簿」(のべ1万4794人)、在上海ポーランド総領事館の1934年~1941年の登録名簿(のべ1550人)、在カウナス日本副領事杉原千畝が1939年7月~8月に日本通過ビザを発給したユダヤ人難民名簿(2340人)を照合した結果、最大594人のポーランド系ユダヤ人がリトアニアを経由して上海へ逃れたことを確認した。さらに、1)氏名表記のずれから、急を要する難民救援においては後になるほど作業が不正確になること、2)ユダヤ教のラビや神学生が太平洋戦争前や戦争中に上海を離れており、困窮度とは別の選別基準が存在することが明らかになった。 2.ユダヤ人難民の大部分が移住した1939年に発行された『Shanghai Jewish Chronicle』紙のうち、現存する版の広告を通して難民たちの経済活動を調査した。その結果、1)衣(ヨーロッパから持参した服の修繕や上海の高温多湿な気候に合わせた仕立て直し)、食(ヨーロッパ風の飲食業)、住(バス・トイレ・ガスなどを備えたヨーロッパ水準の不動産の賃貸)関連の商売は早期に始まった、2)著名な医師や高級仕立屋は上海の外国人社会へ参入しようとした、3)難民社会内部の経済が成立した、4)難民が持参した貴金属や貴重品の買い取りビジネスが盛んだった、5)資金不足から資金提供・共同経営者募集の広告が多く見られた。
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Research Products
(2 results)