2011 Fiscal Year Annual Research Report
桑原隲蔵『中等東洋史』の中国語訳本に関する調査とテキストの比較研究
Project/Area Number |
21520724
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
黄 東蘭 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (00315871)
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Keywords | 桑原隲蔵 / 『中等東洋史』 / 漢訳諸版本 / テキスト比較 / 東洋史 / 支那史 |
Research Abstract |
1,資料の収集について21年度、22年度に続いて、今年度も桑原隲蔵『中等東洋史』(大日本図書、1898年)の日本語・中国語諸版本、諸訳本、および明治期の支那史・東洋史教科書を網羅的に調査した。 2,資料の分析と研究成果について桑原隲蔵『中等東洋史』とその前に出版された田口卯吉『支那開化小史』や那珂通世『支那通史』などの支那史書物とを比較し、『中等東洋史』の歴史叙述の特徴を考察した。また、『中等東洋史』とその最初の漢訳本である樊柄清訳『東洋史要』、清末の歴史家陳慶年が樊柄清訳本に基づいて改編した『中国歴史教科書』、および清朝政府の教科書審査意見に基づいて修正された同書の改訂版という四つのテキストを比較し、以下の結論が得られた。すなわち、桑原の東洋史は、神武紀年の採用や章節体を用いた簡潔な叙述スタイル、および「東方亜細亜」(日本を除く)の諸民族を対等に扱い、その歴史的役割を重要視するなどの点においては儒家の歴史叙述と大きく異なる。一方、同書は、中国歴代の正史を主な史料とした点、中国史が圧倒的に多くの分量を占めている点、桑原の「東洋」が華夷秩序下の「中国」(「内部」と「外藩」からなる)と空間的に重なる点、およびその民族叙述が中国歴代の正史が描いた中国史上王朝交替の「一治一乱」の構図と重なり、歴史を循環的にとらえた点において儒家の伝統的な歴史叙述に通底するなど、清末期中国の知識人にとって共感できる点も多かった。以上の成果を国内外のシンポジウムや学会で発表し、韓国の学術誌『概念と疎通』(翰林大学)第八号に掲載した。 3,新たな問題領域の開拓本研究を通じて、明治期日本の中国史通史・断代史教科書のテキストを分析し、近代日本の中国認識の歴史的形成、およびそれに附随する歴史意識を解明するという新たな研究領域を開拓し、研究の一層の深化が期待される。
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