2011 Fiscal Year Annual Research Report
中世フランスにおける「国家史」叙述の生成・変容過程に関する研究
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21520735
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
鈴木 道也 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (50292636)
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Keywords | 中世史 / 歴史叙述 / 写本 / 国際情報交換 / フランス |
Research Abstract |
中世フランス王国では、「王の言葉」に位置づけられた俗語フランス語が13世紀後半以降広く王国内に浸透・定着したとされてきた。権力の言語的表象として機能する歴史記述でも同時期に俗語散文体の存在が知られており、従来の研究史は、政治エリートにおけるリテラシーの向上や文字記録への信頼性の高まりを前提に、現状を正当化(あるいは批判)する手段として人々は「書かれた過去」に注目するようになった、と理解してきた。ここには、二重言語構造が変質しつつある状況のなか新たな読者層に向け王権近くで俗語史書を粛々と編纂する歴史家の姿を想像することができる。しかし最近の研究は、14世紀前半にかけてフランス王国内で作られた史書の多くは内容の如何を問わずラテン語であり、その優位は揺るがないことを確認している。こうした指摘を踏まえれば、この時期の俗語史書が担っていた象徴性、あるいはその具体的機能を伝統的な枠組みのなかで理解することはもはや困難であるように思われる。そこで今年度の研究では、フランス語の発展期とされてきた13世紀後半から14世紀前半にかけて王国内で制作された複数の俗語史書をとりあげ、語彙も綴りも異なる方言的変種をいくつも抱える俗語フランス語のなかからひとつを選び、過去のラテン語史書の翻訳あるいはそれへの加筆という形で俗語版を作り上げていった歴史家たちの、俗語利用の思想と方法について考察した。結果としてカペー朝期の『王の物語』からヴァロワ朝期の「歴史の鑑』俗語版まで、この時期の俗語史書編纂事業は必ずしも活発とはいえないが、歴史家たちは読者(受容者)の意向を踏まえつつ、また俗語の可能性を慎重に探りながら、ラテン語史書に記された普遍史的世界観を「フランス史」に置き換えていたことが明らかとなった。従来語られてきた「フランス語の勝利」は、歴史記述の現場では比較的長期に及ぶ試行期を必要としていたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国際研究集会での報告は無事に終えたが、そこで自ら提起した課題および参加者から提出された疑問点を解決していくために必要とされる史資料の収集は順綱に進んでいるとはいえず、またその分析手法についても、現時点で十分に確立しているとはいえないため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は来年度(平成24年度)が最終年度であるが、「現在までの達成度」欄に記したように現時点において充分な史資料収集がなされているとは言い難い状況にあり、この点について早急に改善していきたい。また、史料に用いられた「言語」そのものの性格を分析する必要が生じてきていることから、隣接科学、とくに言語学の最新の成果を援用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)