2009 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀におけるアメリカの多元的国民統合と人種境界の形成
Project/Area Number |
21520746
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 耕太郎 Osaka University, 大学院・文学研究科, 准教授 (00264789)
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Keywords | 西洋史 / アメリカ史 / ナショナリズム / 人種 / 移民 |
Research Abstract |
本研究は第一次大戦期から1920年代にかけて成立する20世紀アメリカの国民秩序の形成過程を解明する。この秩序は一方において、新来のヨーロッパ系移民を多元的に統合する反面、他方では黒人やアジア係を政治的、社会的に排除する構造をもったと考えられる。そうした国民共同体の再編と新たな社会的境界の構築は、いかなるメカニズムのもとに進行していったのか。研究の初年度である本年度は、人種に基づく「境界」が形成された直接的経緯を分析することで、この問題にアプローチした。具体的には、第一次大戦直後のシカゴで勃発した人種暴動の展開と、暴動後に設置されたシカゴ人種関係委員会による平和維持活動を綿密に検証した。まず年度前半には、同委員会最終報告書などの既刊行の史料を中心に研究を進め、その成果の一部は6月の第59回日本西洋史学会小シンポジウム『20世紀世界に見る人の移動と暴力』でのパネル報告、「人種暴動とその後-シカゴ人種関係委員会(1919~21年)の秩序形成」として発表した。また、夏季にはイリノイ州スプリングフィールドの州文書館とシカゴ大学レーゲンシュタイン図書館を中心に、およそ3週間にわたってシカゴ人種関係委員会文書やJulius Rosenwald文書などの人種暴動にかかわる未刊行史料の調査を行った。年度後半は、主に収集した文献の検討・分析に費やしたが、その過程で、人種関係委員会を主導した社会学者集団(シカゴ学派)の重要性が浮かび上がってきた。移民の同化・適応理論として知られるその学知は、暴力の再発を抑え、調和的な人種・エスニック関係を模索する活動の中で、結果として居住区の人種隔離を容認する力として作用する面をもった。この展開は、国民統合と境界形成という二つの潮流の結節点として注目してよかろう。なお、以上の研究成果をもとに小論、「20世紀国民秩序と人種の暴力」を『歴史科学』第200号(2010年4月刊行予定)に執筆した。
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