2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520757
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
土屋 好古 日本大学, 文理学部, 教授 (70202182)
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Keywords | 西洋史 / 近代ロシア史 / ロシア第一次革命 / 日露戦争 |
Research Abstract |
平成23年度は、研究計画の最終年度であった。同年度は、研究計画の2年間に推進した日露戦争とそれがロシアにもたらした課題の解明を基盤に、1905年の第一次革命において、ロシア自由主義者たちがいかにしてその課題を克服しようと考えたのかについて、また専制の側が、日露戦争・第一次革命がもたらした危機にどのように対応したのかを、公文書のほか、同時代の様々な論説やビラなどから読み解く作業を進めた。 さらに前2年の研究成果をあわせて、一書として集大成する作業を進め、それを完成させた。これは、平成24年後半に成文社から『「帝国」の黄昏、未完の「国民」-日露戦争・第一次革命とロシアの社会』として刊行されることが決まっている。本研究課題の成果である同書の内容は、以下のようである。まず「長期の19世紀」というヨーロッパ史の歴史的文脈を確認し、そこでは国民国家が国際関係のなかで強国としての立場を確保していくための条件となっていたことを明らかにする。次いで、19世紀後半以降のロシアの政治社会状況を検討し、日露戦争前夜には体制批判が高揚しつつあったことを指摘する。日露戦争は、そうした批判を一時退潮させるが、相次ぐ敗戦の中、再び体制に対する批判が活性化する。そこでの生まれた議論は、小国とみなしていた日本が、国民国家としての強度を備えた手ごわい敵である一方、大国を自負していたロシアはその国民的強度において日本に劣るというものであった。ロシア社会は、銃後・戦線・後方において戦争に協力して大きな力を発揮したが、こうしたロシア社会の認識は、専制体制を立憲主義に基づく国民的体制へと転換させることを求める自由主義運動にはずみを与えた。労働運動を契機として爆発した第一次革命であったが、それは、「帝国」的統治から国民的体制への移行という歴史の力学のなかで生じた事件であったのである。
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