Research Abstract |
本研究課題の2年目にあたる平成22年度は,初年度に行ったスペインの都市政策および事例都市タラゴナに関する予備調査の結果をふまえて,タラゴナを対象とする本格的な調査・研究に取り組んだ.そのために,8月末から9月の3週間強の日程で現地調査を実施した. 現地調査では,研究テーマ全体にかかわる基礎調査として,1990年の都市計画図との比較をふまえた建物単位のフィールド調査により,歴史地区の空間利用とその変化を把握した.次に,遺産保護政策について,カタルーニャ州政府文化省およびタラゴナ市考古学室への聞き取りを行い,そこで得た情報をもとに考古遺産が存在する土地区画の開発事例を十数件抽出して,行政認可の過程に関する文書資料の調査と現地確認を併せて実施した.さらに,歴史地区の空間利用の現状と課題について,住民組織,同業者団体,不動産業者等に対する詳細なインタビュー調査を行った.これらの調査研究を通じて,自治州による遺産保護政策は,自治体主導の都市計画が予定した歴史地区の改造に強い制約を課したものの,保存対象の柔軟な設定と民間主体による遺産保護・活用を通じて,結果的に歴史地区の変化にポジティヴな影響を与えていることが明らかになった.調査期間中には,次年度を見越して,もうひとつの対象都市であるレウス市の助役および行政担当者と面会し,歴史地区再生に関する基礎的な情報・資料の提供を受けた. 平成22年度の研究成果については,年度中に2回の学会・研究会報告(うち1回は海外)を行う一方,一橋大学地中海研究会刊行の学術雑誌Mediterranean Worldおよび日本都市計画学会の会誌『都市地理学』(査読有)に論文を公表した.さらに,調査地であるタラゴナのルビラ・イ・ビルジリ大学の要請を受け,スペインでの研究成果をふまえて,日本の都市空間の特質をテーマとする学術講演を行った.
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