2011 Fiscal Year Annual Research Report
フィリピン植民地ナショナリストが生み出す「もう1つの植民地主義」に関する研究
Project/Area Number |
21520809
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 伸隆 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10323221)
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Keywords | フィリピン / 植民地ナショナリスト / ミンダナオ島 / 来国植民地主義 / 民族資本 / 外資導入 / 国民意識 / 固有の領土 |
Research Abstract |
本研究の目的は、植民地国家フィリピンにおいて、米国植民地主義による文明の啓蒙プロジェクトが地域を超えて発動する中で、被支配者フィリピン人が従属的な立場から近代に深く関与することで、行為主体ならびに社会内部全体に矛盾・亀裂が生じる植民地システムの分裂状況とその相互連関を考察することにある。最終年度にあたる本年度は、植民地ナショナリストが、ミンダナオ島開発のための労働力源として組織的移住を展開する一方で、宗主国米国からの「独立」という大義名分のもと、外資に頼らないで自律的に民族資本を増加させていく過程を分析する。 調査の結果、植民ナショナリストのミンダナオ島関与は、一貫した開発計画が不在で、かつ単線的発展経路を辿るものではなく、むしろ錯綜する国内外の政治状況との相互作用の中から展開してきたことが明らかになった。具体的には、1913年に開始されたいわゆる米作コロニー計画が頓挫した後、経済力のある入植希望者のみを移住させるいわゆる「ホームシーカープログラム」だけが細々と継続する。ところが、1920年代後半になると、「外資」主導によるミンダナオ島開発が米国植民地政府から叫ばれ、植民地支配の再来を恐れた植民地ナショナリストは、その反発から民族資本主導による開発を推進することになる。「外資」導入によるミンダナオ島領有に対する危機感は、ミンダナオ島をフィリピン固有の領土とするナショナリストの国民意識を喚起し、民族資本による自律的な開発を模索する必要性を刺激した。すなわち、米国による外資導入阻止(外圧)が主たる要因となって、植民地ナショナリストが1930年になって「資本」と「労働力」双方を視野に入れたミンダナオ島総合開発計画の導入を具体化させたのであることが理解できる。これに加え、従来から指摘されてきた日本人移民によるダバオ開発がもう一つの「外圧」として作用するなど、ミンダナオ島開発政策の具体的な展開は、主に2つの外圧からフィリピン固有の領土奪守るための防衛策的な性格が強いことが浮かび上がってくる。
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