2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代イギリスのパキスタン系ムスリム女性の就労意識と実践
Project/Area Number |
21520810
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
工藤 正子 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80447458)
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Keywords | イギリス / パキスタン系 / ムスリム女性 / 労働 / マイノリティ / ジェンダー / イスラーム |
Research Abstract |
8月8日より9月2日まで、バーミンガム市を拠点にパキスタン系移民女性(主に2世)を対象に聞き取り調査を行うとともに、移民支援団体の代表者や関連分野の研究者らとも意見交換も行った。このほか、大学の図書館等において、統計および関連文献の収集を行い、日本国内でも、データの分析を進め、学会等での意見交換をとおして分析の方向性を修正し、発展させた。 今年度の研究成果として、主に次の2点を挙げることができる。第一に、調査対象者の大半を占める中間層の女性たちのあいだでは、移民コミュニティ内での起業、またはそれを企図するケースが少なくない。これらの起業は、労働市場での差別を克服し、また、社会的文化的なジェンダー規範を逸脱することなく、限られた社会関係資本や言語資源を最大限に動員した女性たちの戦略とみることができる。ただし、これらの起業はインフォーマルな経済活動であるゆえに制約も多く、女性たちの脆弱な社会経済的位置を象徴的に示すものともなっている。第二に、家内の無償のケア労働が、妻・母としての役割意識のうえでも、家族やコミュニティからの期待においても、依然として重要な位置を占める。パキスタン系移民1世が高齢期を迎えていることから、子育てにくわえ、高齢者介護も女性たちの大きな関心事となりつつある。一方で、不況が長期化し、また、教育費等の高騰もあり、妻が家外で働く必要性はますます高まっている。これらの調査結果と前年度までの成果を総合した結果、調査対象女性たちの就労をめぐる意識と実践は、社会経済的諸条件のなかで、移民女性たちが家庭内のケア役割やさまざまな形態の有償・無償の仕事を組み合わせ、イギリス社会および移民コミュニティや家族内での位置どりを交渉する複雑な過程であることが明らかとなった。 また、本研究課題から得られた知見により、在日パキスタン人と日本人女性との結婚で形成される家族やそこでの家庭内外での女性の就労と関連する研究発表を行う際にも比較的視点の導入が可能となり、それによって日英双方の状況を照らし出すことができた。
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