2010 Fiscal Year Annual Research Report
民主主義の人類学―ヴァナキュラー・デモクラシーの課題と可能性
Project/Area Number |
21520817
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田辺 明生 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (30262215)
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Keywords | 文化人類学 / 政治学 / インド / カースト / 民主主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ヴァナキュラー・デモクラシーという観点から、グローカルな民主主義の実践と思想について、世界的な比較と連鎖の中に考察を行い、人類学の視点から、民主主義に関する政治哲学をその根本から再検討することにある。その主眼は、世界的に多様な民主主義の形を民族誌的な観点から明らかにすること、現在新たに築かれつつある民主的な社会運動のネットワークを描写すること、そして、そうした経験的事実に立ちながら、民主主義の実践と理念を、西洋主導の国家学の桎梏から解き放ち、人類学の観点から真の意味で地球社会にとって普遍的な実践哲学へと磨き上げることにある。 本年度は、主に関連の文献資料を収集し読解を進めてきた。またインドにおけるフィールドワークを8月に行った。インドにおいては、インド・オリッサ州におけるニヤマギリのボーキサイト開発をめぐる問題について調査をした。グローバル企業、地元トライブのドングリア・コンド、中央政府、州政府、社会運動家、NGOなど利害関係と価値観の異なるさまざまな主体がどのようにからみあっているのかについてサーベイした。現代インドの民主主義の活況は、従来は周縁化されてきた下層民を含む多元的な主体が、少しずつ声をあげられる状況になっていることと関わっている。ただし資本と権力の都合が優先される現状のなかで、彼らの声がどのていど実際に聞かれるようになっているのかは、慎重な検討が必要だろう。こうした問題をめぐるグローカルな民主主義のありかたを理解するには、ネットワークの全体をできるだけ丁寧に追いかけていくことが必要になるであろう。 本研究の意義は、在地の文化資源と民主主義の精神を接合するヴァナキュラー・デモクラシーのグローカルな展開に注目することで、通常の自由民主主義の枠組みを超えた民主主義の諸形態の可能性をみようとするところにある。これにより、人類学からの政治哲学の根源的な問い直しの契機を提供できるだろう。
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Research Products
(3 results)