2011 Fiscal Year Annual Research Report
トラウマを背負う文化集団成員の受容の場としての多文化相互諸過程の文化人類学的研究
Project/Area Number |
21520828
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮坂 敬造 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (40135645)
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Keywords | 文化的集合的トラウマ経験 / 象徴的社会的文化表現再構成課程としての多文化相互諸過程 / トラウマを扱う多文化演劇 / 難民の苦境と生活史 / 多文化間の文化医療人類学 |
Research Abstract |
今年度は、難民の文化的集合的トラウマ経験に関しての継続追加面談調査を、昨年度末に引き続いてカナダのVancouver所在の難民支援治療機関において実施した。追加面談によって、難民の苦境と生活史事例の多様性について更に確認し、また、治療とは異なる係わりではあるが、元の難民申請者たちによる現在難民申請中在住者サポートの過程の一部分が、現在難民申請者の人々がかかえるトラウマの克服に一定の媒介的役割を果たしている有り様を追加的に調査した。象徴的社会的文化表現再構成過程としての多文化相互諸過程にこうした媒介的役割を組み込んで検討すべき点について更に検討できた。トラウマに関わる語りは調査者にすぐに開示されるわけではなく段階を踏む過程でだんだん明らかとなったり急速に明らかとなったりしていったが、調査者との面談的語りの場が、治療者とはまた違う過程によって、ときには治療者に語る以上の様相を開示する事例も短期調査の期間中に現れた。難民申請の人々のあいだで東北大震災への同情的関心が生じ、そこから彼ら自身のトラウマに関する談話が展開していったという事例も現れた。以上の海外調査に加え、国内では、精神疾患を経験した方々の苦難経験とトラウマ関連記憶の語り及び震災経験の面談調査と、医学的治療とは異なる様相で展開される当事者集団内過程の参与観察を短期調査で行い、上記の海外調査での諸過程との比較し、セルフヘルプ集団に加わりつつ苦難を克服する集団過程に現れる共通面の抽出を試みた。これらの調査事例を分析する理論を修正彫琢するに際し、カンボジア虐殺トラウマを扱う教育臨床学者・人類学者のP.LeVine氏の事例や考察を参照し、同氏と討論する機会を得た(学会発表、著作で上記調査にかかわる一部の問題を検討したが、トラウマを感覚の人類学に関連して検討する英語論文は現在査読中)。トラウマを扱う多文化演劇に関しても国内調査で事例を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
科研費以外の調査費用がない状況であったため、今年度支給の範囲に調査規模を縮小した点が主要因。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)現在まで収集した難民の事例はまだ理想的基準で判断すると十分に集まったとはいえないので、すくなくともあと1ヶ月程度、vancouverにおいて再調査を行う。(2)また、トラウマを扱う多文化演劇の調査については、シンガポールを含む東南アジア、さらには、アフリカのルワンダでの海外調査がのぞましいが、調査費用に限りがあるため、メイルやスカイプを用いて面談が可能かどうか工夫して検討してみたい。また、フランス語文献についてまだ検討収集していない段階であるが、フランス人研究者と連絡をとることを試みたい。(3)映像人類学的資料で、本研究に関与する資料があるかどうかを調べることも追加課題として設定する。(4)本研究の文化医療人類学的研究枠組みに加え、感覚の人類学を援用して行うと文化背景差が説明可能になりうる側面に気づき、また、トラウマ・記憶は感覚とむすびつけて考察する重要性にも気がついたため、感覚の人類学の研究枠組みを組み込む検討を追加課題とする。以上。
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