Research Abstract |
まず,酒造業については,汎用性のある技術が従来のやり方にしばられにくい合併企業や後発企業にこそ受け入れやすいのではないかという推論を立て,それらに関する資料の収集とデータの整理をおこなった。 陶磁器業については,轆轤の使い方と製品の代替性という2つの局面から,壺屋焼と波佐見焼をおもな対象として調査をおこなった。いずれの産地でも,轆轤の技術は手作り感と産地の特徴を出すための重要な要素となっていた。製品の代替性については,桶・樽を典型として,機能やコストの合理性よりも原材料の質と量,規格化,あるいは流行に左右される傾向がみられるため,単なる技術変化にとどまらない状況を広く考察する必要性を感じた。 その桶・樽は,醸造などの生産道具として用いられる場合,良質の材と極めて高度な技術によって作られるため,製造コストに大きく影響する。このため,大正時代後半から外注と内製のコスト,産地ごとの木材の材質などが厳しく比較されるようになった。これに関する調査は,おもにヤマサ醤油株式会社でおこなった。 また,代替品が安く大量に生産される中,伝統的な製品が作られ続けている例として,三条の矢床と喰切生産の現場を訪ねた。矢床はラジオペンチ,喰切はニッパーと競合しているが,前者は宝石の加工業者に向けた繊細な動作を可能とするため,後者はこれまでの漁網や針金からアルミサッシや皮革など用途を広げることで需要を確保していた。 一方,小池は甲府をおもなフィールドとして,筆記具の製造や修理方法について調査した。また,これに関する資料を積極的に収集し,分析をおこなった。結果として,3年間で製造現場での観察と聞き取り調査,文献資料と製造道具の収集と分析といった多様なアプローチで調査をおこなうことができた。
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