2012 Fiscal Year Annual Research Report
行政の情報収集・提供義務の不作為に対する司法的統制とその問題点
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21530040
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
北村 和生 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00268129)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 公法学 / 行政法 / 行政調査 / 国家補償法 / フランス法 |
Research Abstract |
行政活動は、一定の事実や法的しくみに関わる情報を前提として行われるものである。したがって、すべての行政活動の前に、情報収集活動、すなわち行政調査が行われることになる。本研究は、行政にどのような情報収集義務が課せられるか、それはどのような法的根拠に基づくかを、フランス法との比較研究から明らかにすることを目的とする。また、行政による情報提供義務についても併せて検討することも目的としている。 平成24年度も、前年度に引き続き、調査権限や調査義務に関する判例と近年の学説の整理検討を行った。これらの検討により、行政に調査義務が成立する要件はどのようなものであるかや、調査義務と訴訟による救済の関係を分析することができた。まず、調査義務は、法治主義等の行政に対する一般的な責務の他に、具体的な行政活動に関わって成立することがあり、その成立要件は、多くの判例によると、①調査権限の存在(調査権限や行政活動を授権する法令の存在。または条理による調査権限)、②行政による調査の必要性の認識可能性、③調査が実行可能であることの3つに整理することができた。また、調査義務と訴訟による救済の関係については、一定の場合には、調査義務が制限を受けることとなり、調査義務を履行することなく、行政活動が行われることが許容される場合があることが明らかにされた。さらに、調査義務の対象についての検討も行い、近時の学説や判例で取り上げられることの多い、判断過程統制論やそれによる行政裁量に対する統制と調査義務の関係を指摘することができた。 次に、一方で、フランス行政判例や学説の整理分析も継続して行った。上で見たように、裁量統制と調査義務の関係が重要な問題となっていることから、フランスの近時の文献や判例のうち行政裁量に関するものを中心に分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、本研究の目的に関して、おおむね順調に推移していると考えている。その理由は以下のとおりである。 まず、わが国の判例や学説の分析のうち、行政の調査義務に関する判例の分析については、既に平成24年度までに下された一定の数の判例につき整理分析を終了している。もちろん、新たな判決が継続して下されており(たとえば、耐震偽装事件に関するはじめての最高裁判例である(最判平成25年3月26日)、一方で、平成25年度の研究計画でも触れるように、行政調査義務の履行を求めるタイプの新たな判例や、行政裁量に関する論文や判例についても整理や検討が必要とされ、検討対象となる判例や論文が増加する。しかし、これらについても、平成25年度で検討を行うことは可能と考えられる。また、主要な研究目的についても既に一定の整理は開始している。 フランス法との比較についても、必要な判例や学説についても、おおむね研究は進んでいる。前年度同様、オンライン・データベースの利用により資料収集やその整理が容易となっている。今後は、行政裁量に関する資料につきどの程度分析対象を広げることができるかにつき検討が必要であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究の最終年度でもあることから、以下の点につき研究を行い、研究結果をまとめ、今後の課題を明らかにするものとする。 まず、平成25年度の主要な研究対象は、行政調査の内容はどのようなものかである。行政調査義務が課せられるとしても、どの程度の内容を調査しなければならないのであろうか。この問題については行政裁量の統制方法の一種である判断過程統制論における考慮事項論がひとつの回答となり得ると考えられる。これまでの判例や学説の検討から、考慮事項が行政調査の対象となり得ることは指摘できているからである。しかしながら、一定の場合には、行政調査義務の限界が見られることがあり、その様な場合には行政調査と考慮事項は乖離を見せることがある。このような乖離があるのはどのような場合か、また、その様な乖離を可能にする行政活動の性格はどのようなものかを踏まえ、具体的な判例の分析を前提にしながら研究を進めることとしたい。また、この分析においては、フランス行政判例との比較により一定の示唆が得られると考えられる。 次に、司法的統制の問題点を示すために、訴訟分野ごとに調査義務の役割を明らかにする。行政調査義務の司法的統制を考える上では、主として国家賠償請求訴訟が問題になる。これらの義務違反は、国家賠償法上の注意義務論としての構成になじみやすいからである。この点は前年度までの判例の分析からも明らかになっているところである。しかし、それだけではなく、抗告訴訟やあるいは当事者訴訟においても調査義務が争われることはあり、訴訟の類型毎に、あるいは紛争の類型毎に、調査義務の果たす役割に違いがあると考えることができる。これらの訴訟類型毎の役割の違いを明らかにする。 さらに、情報提供義務について、その内容と対象につき行政調査義務と並行して検討することとする。
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