Research Abstract |
本年度は,情報財のうち,著作権に焦点を当ててその刑事的保護のあり方を調査・研究した。ドイツを中心として著作権侵害罪に関する資料を収集し,分析,検討するとともに,チューリッヒ大学クリスチャン・シュワルツネガー教授のもとで,EUの著作権侵害罪の枠組みとスイスにおける枠組みの比較調査と今後の方向性を検討した。また,別途,ドイツにおける知的所有権の刑事的保護に関するシンポジウムに参加し,議論を行なうなかで,刑法の一般的な犯罪論を知的所有権侵害の犯罪の構成,解釈に結びつけること重要であることが確認された。 以上の調査・研究において,著作権がたんなる財産権のみならず,人格的な利益として理解するということが,ドイツにおいて議論の前提としてあるということが明らかとなった。 付随的に,情報それ自体の保護の問題についても,ドイツにおける議論状況,判例の動向を調査・研究したが,ドイツでは,情報セキュリティそれ自体が人間の尊厳に基づく人格権の一部を構成するものとして理解されており,情報セキュリティにかかわるいくつかの事案で,憲法判断がなされていた。 以上の点を総合するならば,情報財は,その外形的な支配・管理の点はひとまず置くとしても,その内実については,個人の人格に帰属するものとして理解可能ではないかとの推論が成り立つように解される。こうした理解は,わが国ではほとんど意識されていないことであり,この点を理論展開することで,個別解釈論に有効な解決策をもたらすように考えられる。
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