Research Abstract |
研究開始の2年目である平成22年度は,前年度の国際条約に基く責任制限の実施にかかる手続に関して,各国国内法制が異なるもののうち,重要な点に関する調査を進めた.その結果,(1)責任制限(手続への参加の期間制限と時期に遅れた参加の効果,(2)制限債権の確定手続・債権の存否・額に関する異議の制度,(3)責任制限手続と破産制度の3点の違いが,特に重要であることが分かった.(1)については,わが国の船主責任制限法では,裁判所の設定した債権届出期間に債権を提出しなかった場合,以後の手続から完全に排除されるが,多くの国ではそうではなく,一部の配当には与れる法制が少なくない.(2)については,わが国では査定の手続により集団的に確定するが,多くの国ではそのような手続は存在しない.(3)については,両者が併存する法制と,破産手続内に吸収されるものに分かれる(わが国での扱いは,必ずしもはっきりしない).今後もさらに,慎重に分析を進めると同時に,他の論点にも調査を広げる. また責任制限手続にかかる準拠法,責任制限債権の本案にかかる準拠法等について調査したが,この点についても相当考え方が分かれることが分かった.この点についてはさらに調査を続ける. なお本年度の研究遂行中に,1996年議定書によって改定された海事債権の責任制限に関する条約について,国際海事機関における簡易改正手続が進行中であるとの情報に接した.責任限度額の引き上げそれ自体は,本研究とは必ずしも直結しないが,改正の動機は,バンカー油に関する汚染損害に船主責任条約を適用した場合の限度額の不適切さあり,船主責任制限制度それ自体の存在意義と適用範囲にもかかわる問題であるため,こちらの動きについてもフォローすることを心がけたい.
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