2011 Fiscal Year Annual Research Report
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21530182
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
橋本 直樹 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (50180831)
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Keywords | 共産党宣言 / レッド・リパブリカン / 新ライン新聞 / 共産主義者同盟 / カウフマン / 国際労働者協会 / 社会主義者取締法 / マルクス |
Research Abstract |
本年度は『レッド・リパブリカン』掲載の英訳および『新ライン新聞。政治経済評論』掲載の部分再刊についての検討を続行するとともに、特に下記2点に関する資料紹介と論文をとりまとめ、公表した。 1.『共産党宣言』は共産主義者同盟の綱領として起草された。我が国では同盟の組織の性格について種々の議論があり、一致した見解が定まっていない憾みがある。規約の観点から同盟を検討する研究が不十分なためと思われる。このため、旧東独において最も学術的良心的な研究として定評あるマルティン・フントの論文「共産主義者同盟の時期におけるマルクスおよびエンゲルスによる党把握の発展について」を試訳し、公表した。今後の学界における上記検討のための基礎資料の一つを用意するものとしての紹介である。 2.『宣言』の起草者名の普及については、マルクス自身による後年の回顧等の文言を検討する必要がある。それらのなかで、マルクスが自身とは政治的立場も見解も異なるイギリス在住の聖職者モーリッツ・カウフマンに対して、その著作のうち自身の略伝・理論および運動について述べた二つの章の校正を行い、訂正等の助言を与えていることに着目し、この助言に関する事実関係とその検討の結果をまとめ、論文として公表した。本論文によって、次の4点が初めて明らかにされた。すなわち、1)マルクスの助言はすべて受容されたこと、2)マルクスが資料として送付した彼の論文「ジョージ・ハウエル君の国際労働者協会の歴史」の記述がカウフマンによって利用され、その著作の叙述がより正確化されたこと、3)著作での利用箇所のうち上記論文からの直接引用はマルクスの「協会の歴史」論文の異文である可能性があること、4)『宣言』からの一部引用が興味深い英訳であること、以上。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書記載時の研究目的を遂行するなかで、関連して生じた問題群の研究とそれらの解決を優先しているところであるが、それら問題群が見出されたこと自体当初計画を遂行したことによる発展でありまたより重要な課題の設定であったため。
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Strategy for Future Research Activity |
1850年代に限定して研究を開始したが、成果報告書における詳論は、特に『レッド・リパブリカン』掲載の英訳および『新ライン新聞。政治経済評論』掲載の部分再刊についての検討に限定したい。19世紀後半全体に及ぶ課題設定は、単独での研究はいささか困難であることが分かってきた。今後は、わが国の『宣言』に関する学術研究の総括と併せて、基盤研究B以上のレベルにおけるグループ研究の構え方が必要であると思われる。
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