2010 Fiscal Year Annual Research Report
企業における人的資本投資と株主による監視との関係についての実証分析
Project/Area Number |
21530292
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
伊藤 彰敏 一橋大学, 大学院・国際企業戦略研究科, 教授 (80307371)
|
Keywords | 金融論 / ファイナンス / 企業統治 |
Research Abstract |
平成22年度の研究成果としては以下の2点である。第一の成果は、人的資本の多寡が重要になると想定される状況の一つとして買収防衛策導入に着目した実証分析を完了した。すなわち人的資本の重要性か高い企業が買収防衛策を導入すると株主価値を促進するのか、あるいは逆に毀損するのかを問う仮説を、買収防衛策導入アナウンスメントに対する株価反応データを用いたイベント・スタディにより検証した。得られた実証結果は、人的資本の重要性が高い企業が買収防衛策を導入すると株主価値をより毀損することを示しており、人的資本投資の中には経営者の保身を動機とする非効率的な投資が含まれている可能性を示唆している。 第二の成果は、これまで整備した人的資本、企業統治、企業業績に関するパネル・データを用い、人的資本を重視する企業の資金調達行動、株主との利害調整について新たな知見を得ることを目的とした研究を推進したことである。目下の実証結果によれば、人的資本を重視する企業は、価値評価が困難であるという人的資本の特性から外部資金調達よりも内部資金に依存せざるを得ないが、そのために利益調整を節税の方向で行う、すなわち裁量的な会計発生高を活用して課税対象利益を抑制する傾向があることが見出された。また人的資本への投資のために内部資金の残高を高めると、経営者の自由裁量範囲の拡大に伴ういわゆるフリー・キャッシュ・フローのエイジェンシー・コスト(Jensen(1986))が主に株主投資家により懸念されるが、実際には人的資本を重視する企業は、内部資金積み増しとともに株主への配当などの還元額も高めに設定していることが実証的に見出された。
|