2010 Fiscal Year Annual Research Report
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21530316
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷川 寧彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60163622)
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Keywords | 配当政策 / 自社株消却 / 株主総還元政策 / 金融自由化 / グローバル金融市場 / 財務上の特約 / 公募社債 |
Research Abstract |
この研究の目的は,配当と自社株買入・消却の両方を考慮した株主総還元政策について,日本企業が従来型の「安定配当政策」から決別したのか,その行動(変化)の背後に「横並び行動」があったかどうかを確認することを通じて,日本企業の株主総還元行動が周囲の企業行動からどう影響されたかを明らかにすることである。 株主総還元のあり方は,(配当の原資となる)前年度利益や(資金需要となる)今年度の設備投資計画など,企業それぞれに固有の要因により影響を受ける。そこで個別企業の資金調達行動について分析したところ,普通社債の財務制限条項(財務上の特約)について横並び行動と考えられるものが見つかった。財務上の特約の主たる目的は,債権保全(期限の利益喪失条項,担保切り替え条項),信用力低下に対する早期警戒(純資産維持条項,利益維持条項,配当制限条項),劣後性回避(担保提供制約)である。これらは,償還期限や担保を付加できる資産保有状況など個別の状況に応じて自由に選択可能なはずであるが,2006年1月から2010年9月公募発行990銘柄のうち約7割が,無担保社債に担保提供制限のみを追加していた。信用力を標準化(コントロール)するため償還期限と格付情報センターによる格付が同じ既存銘柄のクーポンと当該銘柄のクーポンとの乖離を計算し,無担保かつそうした特約のない41銘柄のクーポン乖離との間で比較したところ,担保制限条項をもつ銘柄のクーポン乖離は統計上有意に低いことも確かめられた。 研究会での報告に対するコメントを受けて,信用力指標として格付が提供する以上の情報を財務特約(担保提供制限)が持つかどうかを識別する回帰分析を現在行っている。併せて,特約付加は社債市場の評価に対する対応なのか,投資家との情報格差に対処するためのシグナル発信なのか,株主総還元との関連はどうかなどを明らかにする計量分析を実行中である。
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