Research Abstract |
本研究の目的は,第1に,子の数の過少性と教育支出の過剰性が同時に生じるための条件を検討することであり,第2に,最適な子の数と教育支出を実現するための公的政策の役割について分析を行うことである. 前年度までに,子の数が外生的に与えられているモデルにおいて,(1)親が低所得で厳しい借入制約に直面していない限りは,教育投資は過剰になること,(2)公的政策として政府による教育ローン市場への介入を考えると,それによってすべての家族において最適な教育投資が行われ,家族厚生が最大化されることが示された. 本年度は,上記の研究を発展させ,子の数を内生化したモデルを構築した.親がまず子の数を選び,次に子が努力水準(例えば,小中学校や高校におけるエフォート)を選ぶ.さらに親は子の努力水準を観察して,教育投資額(例えば,小中学校・高校における補助教育費や大学の学費)を選ぶ.そして,子の所得は努力水準と教育投資の増加関数として決定される.このとき,社会的最適水準と比べて,子の数は過少,教育支出は過剰となる.これは,子の努力水準が高いほど教育投資を増やすという親の反応を考慮して子は過剰な努力水準を選び,その結果,教育投資も過剰になること,および,過剰な教育投資によって子をもつことの限界費用が増加し,子の数は過少になることによる.さらに,公的教育の提供および私的教育投資への補助金という二つの教育政策を取り上げ,これらによって前述の非効率性が解消され得るかを検討した.公的教育の提供は,私的教育投資(さらに公的および私的教育投資の総和)を減少させると同時に,子の数を増加させる効果をもち,それによって社会的最適の達成が可能である.一方で,私的教育投資への補助金は,子の数および私的教育投資水準に及ぼす効果が不確定であり,必ずしも社会的最適は達成されない. 旅費が90%を超えている理由に関しては,国際学会(フランス)での報告のための旅費に加えて,研究過程で研究協力者(下関市立大学準教授・佐藤隆)との打ち合わせの必要性が増し,予定よりも招聘回数が増えたためである.
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