Research Abstract |
前年度までの研究から,戦前の日本では,農業生産の発展が小農はもとより工場労働者の就業行動をも左右する最大の要因であったことが判明した。そこで本年度,下記の3つの課題を遂行した。 1.先進地域の事例研究工業化の進んだ大阪府泉南地方では,1900年代中頃~1910年代初頭にかけて,問屋制家内工業から工場制工業へ綿織物業の生産形態が転換し,小農は副業の綿布生産の機会を失った。しかし,他方で農業生産が発展した結果,この地域の小農は,農業収入の増加によって副業収入の減少を補うことができたため,家族を織物工場で就労させることに消極的な姿勢を示した。この成果を論文にまとめて国内の学術誌に発表した(『社会経済史学』第77巻第4号,2012年3月)。 2.後進地域の事例研究 工業化の遅れた徳島県北東部では,近世以来,全国有数の藍の産地であったが,1900年代中頃以降,国産藍の需要が減少すると,藍作は急速に衰退した。しかし,市場向けの藍作に代わり,自家消費を目的とした米麦の増産が行われた結果,この地域の小農の家計所得はむしろ増加することとなった。その結果,この地域では,関西の紡績工場などが女工の募集を行っていたが,小農は,娘を工場で就労させることに消極的な姿勢を示していたことが明らかになった。この成果をまとめて国内の学会で報告した(2012年度社会経済史学会全国大会自由論題報告)。 3.府県別農業生産力の推計戦前の日本では,農業生産の発展には顕著な地域差が存在した。そこで,公刊統計や各種調査を使って,1890年代と1920年代を対象として,各府県の全農産物を米穀に換算し,府県別の土地生産性と労働生産性が時代とともにどう変化したかを推計した。この成果をまとめてワーキングペーパーとして刊行した(千葉大学経済学会ワーキングペーパーシリーズ#11E057,2012年2月)。
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