2011 Fiscal Year Annual Research Report
ニュー・エコノミーとアメリカ経済の再編--1929年大恐慌期との対比において
Project/Area Number |
21530343
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
秋元 英一 帝京平成大学, 地域医療学部, 教授 (00064113)
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Keywords | ニュー・エコノミー / 収穫逓増 / 一般目的技術 / ディジタル財 / 情報技術(IT) / 1920年代 / 生産性成長 / 金融のIT化 |
Research Abstract |
今年度は、昨年着手した1920年代ニューヨーク連邦準備銀行総裁B・ストロングにかんする史料解析を一時中断して、ニュー・エコノミーの歴史的位置づけについての考察を優先して行った(「ニュー・エコノミーとアメリカ経済」)。そこで明らかになったのは、まず経済理論におけるニュー・エコノミー原理の把握における、従来の新古典派的な収穫逓減の経済学から収穫逓増の経済学への転換の意味である。収穫逓減の地平においては、企業どうしのあいだでの激しい競争が通例であったが、収穫逓増の世界においては、「勝者がすべてを勝ち取る」、すなわちたえざる独占への傾向が存在する。それはおそらく、ニュー・エコノミーの中心に位置するディジタル財の特性に関連する。アイディアなどディジタル財は、非競合財であり、無限の拡張可能性を特徴とする。初期タイプライターがその独特の文字配列に応じた一種の社会的フレームワークを必要としたように、今日のコンピューターもまたそれぞれの特性に応じた体系を必要とする。市場の独占的支配を意図する複数の企業がこれまでと異なる熾烈な競争を繰り広げるゆえんである。近年のアメリカ経済は、1973-89年間の低成長の後に、ようやく1990年代後半になって生産性成長を実現した。この間、情報技術(IT)とソフトウェア開発・投入が加速し、大規模産業のIT使用が拡大した結果、生産性が急上昇した。 経済のニュー・エコノミー化は、投資の集中に向かう流れをつくり出す。これには、1920年代の工場への電力普及や新技術に伴う株式市場の過熱という前例がある。電力の次に一般目的技術(GPT)となるのが今日のインターネットや情報通信の革新である。IT目的の投資のための研究開発は、不確定性を免れない。ニュー・エコノミーへの資金の集中はこの不確定性を倍化する。さらに、証券化の急進展やデータ処理の急速化はもともと脇役だったはずの金融セクターを前面に押し出し、経済は投機的様相を呈する。
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