2011 Fiscal Year Annual Research Report
巨大企業進出によるものづくり企業ネットワークの生成モデルの構築
Project/Area Number |
21530374
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
安田 雪 関西大学, 社会学部, 教授 (00267379)
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Keywords | 企業間ネットワーク / ものづくり / 液晶 / 工場誘致 / 地場産業 |
Research Abstract |
研究最終年度である平成23年度は、平成21年の研究開始時点から現在に至るまでの、S市における巨大ものづくり企業S社の工場進出以降の、(1)当該地域における中小・零細企業との連携状況、取引ネットワークの構築及び維持実態についてヒアリング及び各種統計データを活用して検討するとともに、(2)研究期間の三年間全体をとおしての、当該地域における進出後の企業間取引の進展、ものづくり企業ネットワーク構築の程度、工場進出前後の地域コミュニチイの変貌についての検討をおこない、期間全体をとおしてのものづくり企業の取引ネットワーク構築についての評価及び総括を行った。 工場誘致活動時には、S市臨海部へのS社による工場進出は、当該地域のみならずS市全体さらにはS市をとりまく諸地域における企業群との取引活性化を促進し、膨大な経済波及効果があるとされ(宮本,2008他)、S社を中心的なハブとしたものづくり企業ネットワークが形成されることが想定されていた。 しかしながら、研究期間である平成21年からの3年間に限定し、域内企業の業況ヒアリング、市内産業統計のデータの検討からは、誘致当初からの工場整備及び建築期間については市内各事業所をはじめとして膨大な経済的波及効果が認められるものの、その後の工場稼働以降は、国内外の液晶製造の競争激化、東日本大震災及びその後の電力供給問題等にともない、S社の事業展開が難航し、継続的な当該地域の既存の中小ないし零細企業をも含めた取引ネットワークの形成が進展したとは認めがたい。液晶事業及び太陽電池事業の収益モデルそのものの問題に加え、S市においては、当該地域及び近隣地域の伝統的地場産業とS社が必要とする供給業種との乖離、誘致に疑問を呈する行政への不信による地域コミュニティの一部との軋轢などの問題が背景に存在することも確認された。S社の進出が当該地域に巨大ものづくりネットワークを形成・維持し、当該地域への工場誘致時に自治体が期待したほどには、地域の全体的な経済発展及び地域コミュニティ形活性化に貢献しているものとは現段階では評価しにくい。以上をふまえ、巨大企業進出と既存の地場産業との取引ネットワーク形成の困難さと克服すべき要因を理論化を行った。
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