2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21530398
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
上野 恭裕 Osaka Prefecture University, 経済学部, 教授 (30244669)
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Keywords | 伝統産業 / 事業システム / 堺打刃物 / シェフィールド / 柔軟な結びつき |
Research Abstract |
今年度は事業システムに関する研究会を合計6回実施し,研究協力者である長崎国際大学講師の谷口佳菜子氏(経済史専攻)や,滋賀大学経済学部企業経営学科特任准教授の柴田淳郎氏に研究発表を依頼し,議論を深めることにより,今後の研究の方向性を確認した。研究会での議論やインタビュー調査により,次のことが明らかとなってきた。大阪の堺という場所に,なぜ刃物産業が集積してきたかに関して,歴史的に考察した結果,問屋と呼ばれる卸業者が業界においてリーダー的役割を果たし,製造工程をコーディネートしているビジネスシステムが明らかとなった。その際,問屋は同じランクの技能を持った職人を複数で競争させることにより,技術を向上させていた。 一方,岐阜県関市や新潟県燕市ではそのようなシステムではなく,機械化が進み,新製品開発も盛んであった。堺市がこれまで料理人の包丁で高い評価を獲得し,シェアを伸ばしてきたのは,このような高い技術力の裹付けがあったからであるが,今後大きく発展するためには,関市や燕市のような合理的なシステムも必要になってくると思われる。また,従来型の業界組合が機能面で限界があること,それに対して燕市などに見られる非公式な勉強会が,情報交換の点で柔軟な結びつきを形成し,機能的であることが明らかとなってきた。 また国際比較の観点から本研究の課題を明らかにするために,伝統産業で長期的な競争優位を獲得しているイギリス・シェフィールド地方のカトラリー産業の調査を行った。シェフィールド大学のDr Naoko Komoriを訪問しカトラリー産業の競争優位について議論をし,シェフィールドのカトラリー産業の中で重要な地位を占めるMaster Cutlerと呼ばれる刃物師が社会的に評価され,地域社会の様々な領域で活躍していることが明らかとなった。これらの結果は今後,社会学的な研究を発展させる必要性を示唆したという点で意義のある発見である。
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