2011 Fiscal Year Annual Research Report
1990年代以降の日韓の就業体制の変化と労働力の非正規化に関する比較研究
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21530529
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
横田 伸子 山口大学, 大学院・東アジア研究科, 教授 (60274148)
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Keywords | インフォーマリティ / 非正規労働者 / 社会的脆弱階層 / 生産体制 / ジェンダー構造 / 周辺労働者 / 中核労働者 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「インフォーマリティ」概念を軸に、韓国の非正規労働者の雇用及び生活実態を日本の非正規労働者との比較を通して明らかにすることにあり、平成23年度は、平成21,22年度に行った資料収集や実態調査の結果を分析し、その成果を著書としてまとめる年度として位置づけた。 韓国の非正規労働者の多くは、1960年代後半から80年代初めに形成された「都市下層」との連続性を持ち、零細都市自営業層-非労働力人口-失業者との間に循環・交流構造を持つことが明らかになった。また、これらの非正規労働者の大部分は、法や制度、労働組合の保護から排除された、「インフォーマリティ」のもっとも強い「社会的脆弱階層」であることが検証された。 しかし、同時に1998年の「IMF経済危機」を契機に、韓国の従来の経済発展メカニズムの一つである「組立型工業化」がさらに発展・深化する中で、より労働排除的な生産体制が確立していった。その最たるものが、大々的な生産システムの自動化・デジタル化がともなう「モジュール型生産システム」の導入で、これによって、労働者の脱熟練化が進み、このことは、正規労働者を非正規労働者で置き換えることを容易にした。との結果、「IMF経済危機」以降、非正規労働者が急速に増大し、重大な社会問題化していったのである。本研究の新たな成果は、この生産体制の変化と労働の非正規化のメカニズムを実証した点にある。 さらに、本研究での重要な発見は、韓国の非正規労働者における「ジェンダー構造」の存在を明らかにしたことである。男女別に非正規労働者め実態を見てみると、女性非正規労働者の方が男性非正規労働者より、「インフォーマリティ」が強く、社会的脆弱階層=周辺労働者が多くを占めていることがわかった。一方、男性非正規労働者の場合、元々、正規労働者であったのが非正規化したケースが多く、女性非正規労働者に比べ、雇用も安定的で、その結果、法・制度や労働組合の保護からも比較的排除されていない、「インフォーマリティ」の弱い労働者であった。これは、大企業の男性正規労働者を中核労働者とするなら、男性非正規労働者には、場合によっては中核労働者にも「上昇」できる「準中核」労働者が多く含まれていることを示す。 以上の、本研究における発見と成果を、平成23年度は、著書『都市下層と労働者一韓国における労働の非正規化』としてまとめ、平成24年度刊行の予定である。
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