2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21530533
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
喜多 加実代 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30272743)
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Keywords | 社会学 / 医療・福祉 / 刑事法学 |
Research Abstract |
触法精神障害者の処遇に関する1990年代後半からの動向やそれをめぐる議論として、一方では、刑罰化や有責化の傾向がある.その一方で、それ以前か、ら犯罪行為や問題行動の病理化・医療化の傾向も指摘されており、それが精神障害者の危険視に繋がっていると言われる。 本年度は、1970~80年代における保安処分をめぐる議論について検討した。この時期については、むしろ近年の傾向とは逆に、刑法改正への反対論及び保安処分反対論が優勢になるなかで、学生運動や社会運動の取り締まり(犯罪化)に反対する議論とともに、これらの活動で逮捕された人々が病理化・医療化されることに強い懸念と異論が提出された。これは専門誌から新聞等のメディアにも共通した議論の動向であった。 加えて、精神医療のあり方自体が、保安処分反対論を通じて強く問い直される時期であったとも言え、その意味でも犯罪の医療化については一定の歯止めがかかったと考えることができるように思われる。強制的な医療のあり方、当時の精神衛生法にも批判が向けられ、それが保安処分に反対する議論と結びついていった。すなわち、一方では、犯罪の病理化・医療化に反対し、他方では、触法精神障害者への人権規制が精神障害者一般への人権規制となることを懸念する、近年とは対照的な議論のあり方が確認できた。 精神医療批判のなかで、精神疾患の診断や精神鑑定の妥当性にも懐疑的な議論が増えたが、そこから(病理化・医療化を避けるために)精神障害者の犯罪を健常者と同じく扱うべきとする議論は、ごくわずかであった。また、1960年代や1990年代には、犯罪行為を行った精神障害者や行刑・治療等で問題を起こす(または起こしやすい)人々をどう処遇すべきかという問いが立てられたのに対し、70~80年代には、その問いの立て方自体に疑義が提示され、一般の精神障害者と異なる処遇を是とする議論も後退した,犯罪行為を行ったかどうかにかかわらず、現在の精神医療が提供でき、患者の人権を抑圧しない治療行為はどのようなものか、という問題設定が上記に対抗する問いとして立てられたと言える。
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