2011 Fiscal Year Annual Research Report
「公害」を伝えるメディアとしての「語り部」の役割と今後
Project/Area Number |
21530553
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
池田 理知子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (50276440)
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Keywords | コミュニケーション / メディア |
Research Abstract |
前年度からの継続的課題であった「当事者性」の問題を具体的に検証していくために、患者家族の立場で話す語り部に焦点を当て、彼/彼女らが講話の場でどういった語りをするのか、またオーディエンスとどのような関係を結んでいるのかを記録・分析することを中心に研究を進めていった。インタビュー調査を通して、彼/彼女らが講話の場をどのように考えているのかも明らかになった。そうしたなかで見えてきたのは、自分にとっての水俣病とは何かを考え抜いたうえで語りかける姿であり、それは狭義の当事者ではない者が「当事者性」を獲得していくための示唆を与えてくれるものであった。自分と水俣病とのかかわりに真摯に向き合うことにより、水俣病を語り継いでいく道が開かれ得ることを示しているものといえる。 当初それほど注意を払ってこなかった語り部補助員との対話形式による語り部の講話から、新たな視点を得ることができたのも今年の成果である。こうした形式をとるのは、胎児性および小児性水俣病患者が語り部のときであり、あらかじめ作成されたシナリオにそって一問一答式で講話が進められる。それは、彼/彼女らを典型的な水俣病患者として表象させようとするものであり、彼/彼女らを規制された枠組みの中で語らせているように思える。ただし、対話形式をとっているため、語り部補助を担当する者によって、表象される患者像が異なり、ある語り部補助員との対話では規範に収まりきれない講話の場が生まれている。そのように語り語られる関係性のなかに、ステレオタイプな水俣病ではない、多様な水俣病が、様々な語り手によって語られ得る可能性を見出せた。 最終年度にあたり、これまでの研究成果を発表することにも力を入れた。口頭発表や、論文や本の執筆などを継続して行う一方で、シンポジウム「時代を聞く-戦争、公害、原発」を所属研究機関で開催した。それぞれの現場で「負の遺産」を語り伝えることを長年行っている人たちとの意見交換は刺激的で、その成果は、本という形ですでに出版の準備がなされている。
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