Research Abstract |
本研究の目的は,社会的情動を構成する要素である高次感情を司る認知神経メカニズムについて,詳細な実験的検討を行うことである.平成22年度は,初年度に行った情動反応に伴う身体生理活動について検討した機能的MRIの結果を受け,神経心理学的アプローチによる研究を実施した.本研究では,他者の情動的な刺激を見ている際の心拍や発汗などの自律神経活動をモニターすることにより,それに伴う脳反応と身体反応の関係性を詳細に検討しているが,これまでの成果から,自律神経の中枢部位と考えられている島皮質や前頭前野などが深く関与することが知られている.したがって,その部位の損傷によって,いかなる障害が現れるのかを調べることは重要な意味を持つ.本年度はそうした研究に従事した.その結果,前頭葉の下部の損傷では,自律神経反応が全般的に乏しくなること,情動反応を支える役割を担う記憶機能の一部に低下がみられることなどが明らかになった.一方,島皮質の損傷では,身体反応の一部に障害がみられ,基本感情の種類によって,自律神経反応の表出が異なることが示された.これらの結果から,各種感情の生起に,身体情報の処理や内受容感覚が総合的に重要な役割を担うことが示唆された.最終年度には,感情以外の側面の障害に注目し,身体処理の障害が他のいかなる高次認知機能障害と結び付くかについて,さらに深く検討することとする.初年度に引き続き,本年度の成果も,基礎研究として有益なデータを提供できたものと考えている.この結果が臨床や教育場面にどのように活かされるかについても,最終年度で検討することとする.
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