2011 Fiscal Year Annual Research Report
大学入試における小論文とリテラシー能力の育成に関する総合的研究
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21530809
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
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Keywords | 文学 / リテラシー / 人類 / 読書感想文 / 教科書 / 国語 / 正常と異常 / 詩 |
Research Abstract |
□本年度は、これまでの研究成果を『高度経済成長期の文学』(ひつじ書房、2012年2月)という単著にまとめ、第五章に「教化-教材化される文学」という章を設けた。この章に含んだ3論文は、高度経済成長期に国語科教材として広く用いられた小説、詩、および、その時代の読書感想文で圧倒的な人気を誇っていた太宰治「人間失格」に共鳴する生徒たちのテキスト受容を分析したもので、高度経済成長期におけるリテラシー能力のありよう、そこに期待された要素などを実証的に分析している。 □「万博と文学-<人類>が主語になるとき」(都留文科大学国文学科編『文科の継承と展開』都留文科大学国文学科50周年記念論文集、勉誠出版、2011年4月)を発表し、1970年代に宇宙から地球を眺望し、人間を<人類>という括りで一般化していく思考が急速に広がっていく状況を論じた。また、同論を通して、この時代のリテラシー能力が微視から巨視へ、分析から俯瞰へ、個性の表現から客観的認識へと移っていることを論証し、その問題を万博ブームに沸いた日本の社会状況と接続した。 □批評雑誌「敍説」(花書院)の特集「<精神病院>の文学」(第III期-7号、2011年9月)の編集・構成を担当し、「特集の趣旨」ぜその目的と方法を記すとともに、16本の論文を所収した。ここでは文学における狂気、および、狂人の言説というものを精神病院という場から考察し、いわゆる健常者のリテラシーと非健常者のリテラシーが近代日本においてどのように線引き・区分されてきたかを分析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この間、『「国語」入試の近現代史』(講談社メチエ)、『「いい文章」ってなんだ?-入試作文・小論文の歴史』(ちくま新書)を刊行したことで、入学試験、および、高等学校までの国語教育に関するリテラシー能力の涵養という問題に関しては、ほぼ当初の目的を達成するところまできた。今年度はそれをさらに大学における文学受容というレベルにひきあげ、文学テキストの多様な語り口、記述方法がどのように受容されているかを考察するところまで来ている。当初の「研究の目的」に照らして、ほぼ順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
この間、1970年代以降から現在までのリテラシー能力を検証することが多かったが、今後はそれを占領期まで遡らせ、戦前的思考/戦後的思考、占領期のGHQ政策がもたらしたリテラシー能力などを分析したい。また、これまでのような国語教育の領域を中心とした議論ではなく、ジャーナリズム、雑誌・出版文化なども踏まえながらリテラシーという問題を幅広い角度から論じたいと考えている。
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Research Products
(6 results)