2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21530813
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
相馬 伸一 広島修道大学, 人文学部, 教授 (90268657)
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Keywords | コメニウス / 子ども期 / 研究動向 / 教育思想 / 知識人論 / チェコ / 近代初頭 / アリエス |
Research Abstract |
平成22年度においては、(1)日本におけるコメニウス研究の2001年以降の動向の調査、(2)コメニウスのような教育思想家と現代の教育研究者の社会的位置の比較検討、(3)近代教育思想を考察する上で不可欠な「子ども期」の概念がコメニウスにおいてどのようにとらえられていたのかの検討をめぐって研究を進めた。 (1)に関しては、とくに冷戦終結によって、コメニウスの母国チェコの政治体制が変革され、それによって従来は注目されてこなかったコメニウスの宗教的テクストが教育学研究においても取り上げられ、それが日本のコメニウス研究にも影響を与えた点を明らかにした。 (2)は、本研究課題の実践的な研究である。現代の教育研究は、主として大学で行われ、教育研究者は専門学会における学問的承認を求められる。しかし、そのために教育研究者は常に教育現場との距離感を抱える。学問が制度化される以前の17世紀において教育の考察と実践に携わったコメニウスには、知識人としてのスタンスと実践家としてのスタンスが共在している。この点は矛盾とも映るものの、<教育的>な知識人のあり様を示唆しているともいえる。 (3)に関しては、コメニウス再評価のために、コメニウスが子ども期をどうとらえていたかを検討した。アリエスらの研究によって、ヨーロッパ17世紀は子どもが教育の対象と見なされた近代への歴史的画期であるとされている。コメニウスが孤児としての成育歴を有することからすれば、子どもを保護の対象と見なす発想があって当然である。しかし、コメニウスは『孤児論』を著し、人間存在の本質的な孤独を強調し、徒弟制度や里親制度といった中世的な教育をむしろ重視した。これは、子どもを学校に収容するという発想に立つ近代教育の基本線とは隔たっている。コメニウスの学校論は、近代教育の原型ともいわれてきたが、再考の余地があることを明らかにすることができた。
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Research Products
(5 results)