2011 Fiscal Year Annual Research Report
多文化共生社会を指向した新しい国際歴史教科書対話と歴史教育カリキュラムの研究
Project/Area Number |
21530879
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
百合田 真樹人 島根大学, 教育学部, 准教授 (40467717)
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Keywords | 歴史認識 / 政治哲学 / 歴史教育 / 言説分析 |
Research Abstract |
歴史教科書における表象の差異と、その差異をめぐる折衝とを克服することを目的とした歴史教科書対話の手法が、歴史事実の客観性についての前提を無批判に共有していることを示した。その上で、歴史における物語性と、その知識が内包する政治性を示した。さらに、児童・生徒を対象にアンケート調査をおこない、歴史教科書が示す歴史認識と、児童・生徒がもつ歴史認識との間に明確な差異が存在することも明らかにした。ここから、二国間の歴史教科書の表象をめぐる差異を、政治的に中立な歴史事実という仮定をもとに追究することが非現実的であるのみでなく、特定のイデオロギーに包摂する客体として学習者を位置づけ、過去を批判的に検討する主体として学習者を位置づけない歴史教育を奨励する危険性をもつことを論じた。そのうえで、児童・生徒が第2次世界大戦についてどのような知識をもっているのかを調査するとともに、児童・生徒はどのようなものを歴史教育における「歴史認識」としてとらえているのかを調査した。 この調査から、児童・生徒の歴史認識は出来事をめぐる事実認識に限られており、その認識が年表的(Chronicle)な知識に集約されており、歴史の因果関係(Causality)にもとづく認識は、メディアや近親などの学校の正課外から得ていることが分かった。歴史教育が付与する認識は、こうした社会環境から得る認識(Popular History)と競合しており、学校現場でおこなわれる歴史教育が過去を批判的に検討する主体として学習者を位置づけ、歴史の手法を伝えるものとはなっていないことを示した。この結果については、アメリカ社会科教育学会で発表したほか、学会誌に投稿している。また、調査手法として導入した言説分析方法についてもあわせて発表した。
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