2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の洋楽受容期における音楽鑑賞観の形成と位相
Project/Area Number |
21530909
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
寺田 貴雄 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (00322868)
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Keywords | 音楽鑑賞 / 洋楽受容 / 近代用語 / 音楽教育史 / 音楽教育学 |
Research Abstract |
1.音楽鑑賞観の抽出と思想的背景の考察 明治中期から昭和初期刊行の出版物に掲載された音楽鑑賞関連の言説を収集・整理しつつ、音楽鑑賞観の形成過程における芸術思想や教育思想との影響関係を探究した。近代日本の音楽鑑賞観に包含されている諸概念の内、「趣味」「テーストtaste」の考察については、日本音楽教育学会第42回大会において研究発表を行った。また、『北海道教育大学紀要』において論文発表を行った(印刷中)。近代の「趣味」「テーストtaste」は、明治30年代以降の「趣味教育」の思想や明治40年代の「趣味」という語の社会的流行が契機となり広く普及した。音楽鑑賞観に包含される「趣味」には、次の4つの側面、(1)聴かれる対象としての音楽の性質(要素や様式的特徴)(2)聴き手の音楽を受容する能力(3)音楽を受容する能力が高まりある域に到達した状態(4)社会を向上させようとする指向性を見出した。 上記(1)は、最も初期の側面であり、近代辞典類では「あじわい」「おもむき」「おおしろみ」という語義で定義されていた。音楽鑑賞の場合は、聴き取られるべき音楽の性質という意味である。(2)は、明治20年代から30年代にかけて英語のtaste概念が移入して形成されたと考えられる側面である。音楽鑑賞の場合、聴き手である主体の傾向や能力(聴取力や音楽理解力)を意味する。(3)は、到達した状態だけを重視しているのではなく、その状態に向かって音楽受容の能力を高めていくことが重視されていた。これは、教育における人格主義や修養主義の思想との関連が大きい。(4)は、社会全体が目指す音楽文化の方向として高級」文化の受容が主張された。これには、坪内逍遙らの趣味教育の啓蒙活動が深く関わっていた。 2.音楽鑑賞観の形成と社会的文化的事象との関係性の検討 音楽鑑賞観の形成には、聴取する対象として音楽を意識することが不可欠であり、近代日本の場合、音楽会の増加、蓄音器レコードやラジオの普及が音楽を意識化する契機となった。社会での音楽聴取機会の増加が、大正から昭和初期の学校における音楽教育への鑑賞の導入に繋がった。
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