2012 Fiscal Year Annual Research Report
社会科における「エクイティ」と「コンプリヘンシブ」の学習内容構成に関する比較研究
Project/Area Number |
21530917
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
川崎 誠司 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10282782)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 多文化教育 / 社会科 / 公正 / エクイティ / 授業研究 / 法教育 / 質的研究 / ハワイ |
Research Abstract |
多文化社会では異質な価値観の衝突が生じる。一方の価値観からみるともう一方の価値観は「トレラント(tolerant) ― 寛容」ではない存在,つまり「イントレランス(intolerance) ― 不寛容」ということになる。この「イントレランス」に対して,子どもたちがどのような認識をし,どのような意識や態度を身につけるべきか,そのための社会科教育はどうあるべきかについて考究する。アメリカの多文化教育における「エクイティ教授論(Equity Pedagogy)」を手がかりに,日米の具体的な社会科実践の観察・分析を通じてそれを明らかにすることが本研究の中心課題である。 1.授業観察・学校観察:アメリカ・ハワイ州の小学校において前年度に引き続き観察・記録を継続した。 2.「コンプリヘンシブ」に関する資料の収集:ハワイ州教育局の社会科専門官に州社会科カリキュラム改革について聞き取りをするとともに,教育政策における「エクイティ」とそれを補完する概念である「コンプリヘンシブ」に関する資料収集を行った。 3.観察記録の分析:授業の質的研究を方法論としていることから,観察記録の充実を行うとともに仮説生成に取り組み,行政資料等との対比の中から仮説の精緻化に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
授業観察,学校観察は長年の人間関係と先方の献身的な協力体制により,概ね順調に進展している。研究代表者を常勤スタッフと同様に扱う雰囲気も強くなり,質的研究において極めて重要とされる「集団の内部者の視点」も備わってきたように感じられる。 本研究でテーマとする「トレランス/イントレランス」「公正(エクイティ)」は,「平等観」とともに文化的文脈に強く依存する概念であるため,現地社会に研究代表者が深く入り込み,生活者の視点で事例を考察することができるようになることが最も重要と考える。 渡航回数の限界を補完するため,事例考察の技術の一つとして法哲学の正義論に手がかりを求め,学習者の「公正観」の深化を逃さず記録・分析・蓄積できるように観察者の技量を高めるよう努めてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の次年度も,これまでに引き続き授業観察・学校観察を継続して行い,観察記録の蓄積を進めてゆく。同時に,これまで蓄積してきた記録の質的な分析を行うことで,学習者の「公正観」の深化について仮説の検証を試みる。 学校の位置する地域の生活者の視点を引き続き体得することに努めて,文化的文脈に沿った記録の解釈を行い,究極的な研究目標である日本の市民の「公正観」の深化のあり方について,学習論として成立させることのできるように研究を進めてゆく。 「公正」を補完する「コンプリヘンシブ」については,授業観察記録に現れにくいことから,教育行政の資料等をもとに内容分析を図り,学習論の中に位置づける。
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