2009 Fiscal Year Annual Research Report
音楽文化形成における教育の役割と自国文化認識の世代間、文化間比較
Project/Area Number |
21530942
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
石井 由理 Yamaguchi University, 教育学部, 教授 (70304467)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩原 麻里 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10290652)
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Keywords | 音楽教育 / 文化的アイデンティティー |
Research Abstract |
本研究では、文化のグローバル化が進む中で人々の自国文化認識はどのように変化するのか、またその変化において学校教育はどのような役割を果たしうるのかを、日本の学校における音楽教育を事例として明らかにしようというものである。このため、質問紙調査を用いて日本の高齢者と大学生、およびタイの大学生と日本の大学生の自国音楽文化認識の比較分析を行う。質問紙調査は、「日本の音楽」「我が国の音楽」「郷土の音楽」「好きな音楽、よく聴く音楽」について、10曲以内で曲名を回答させるものである。平成21年度は主として分析のためのデータ収集を行ったほか、分析にも着手した。具体的には、日本の都市部に在住する高齢者に対する質問紙調査と、タイのタマサート大学およびシルパコン大学における大学生に対する質問紙調査を実施した。タイ語の質問紙は、質問項目を正確に伝えるため、日本語とタイ語両方に堪能なタイ人大学教員と日本人大学教員によるダブルチェックを行った。また、シルパコン大学ではタイの伝統音楽を専門とする研究者と面談し、学生の回答のうち「郷土の音楽」に対する回答として挙げられた曲に関する解説を受けた。いずれも他者の影響がないようにコントロールした環境で実施された記述式の質問紙調査であり、文献からは得られない貴重な情報を得ることができた。現在までのデータの分析から獲られた傾向としては、日本の大学生と比較して日本の高齢者は「郷土の音楽」を自分自身の出身地の伝統音楽と捉える傾向が強いこと、プライベートな場での音楽文化は大学生同様に学校教育で学んだものよりも歌謡曲などが多いこと、高齢者と大学生共通の「日本の音楽」の認識として唱歌や童謡などの教科書掲載曲の存在が大きいことがあげられる。これに対し、学校教育で特定の音楽教科書を用いることのないタイの大学生の回答には、「タイの音楽」に対して日本の唱歌のように教育目的で作られ、多くの回答者に共有される特定の存在はなく、「好きな音楽、よく聴く音楽」への回答と似た傾向が見られる。
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