Research Abstract |
本年度(2011)は,音高認知機能に問題を有すると推察される者,つまり聴奏・視奏の能力が著しく低い者を学習者として,独自に開発した「聴奏・視奏システム」を用いながら,学習者が聴奏・視奏の能力を習得する過程,別言すれば提示される聴奏課題・視奏課題の誤再生が減少する過程に注目し,その過程における学習者の聴奏・視奏の変容と言語報告を分析・検討し,聴奏・視奏の能力を育成する音楽教育プログラムの開発に寄与する何らかの知見を得ることを目的とした。 聴奏課題も視奏課題も,C4・D4・E4の3音からなる音パターン(4分音符3つと4分休符1つからなる)10個を,それぞれ聴奏と視奏とで再生させるものであった。第1次調査では,31名の大学生を対象として実施し,その中から著しく課題遂行が困難であった2名を学習者として抽出した。その後,第2次調査および実践(9月~11月)を実施した。調査および実践における2名の学習者の課題遂行回数は延べ39回に及んだが,「聴奏・視奏システム」の導入により,39回の課題遂行状況を瞬時に把握しながら進めることができた。つまり,2名の課題誤再生数の推移がより明確になり,その推移と学習者の言語報告とを重ね合わせることにより,聴奏課題・視奏課題の誤再生が減少する過程に注目できた。結果,(1)2名の誤再生数の推移をみると,誤再生数は明らかに減少した。3つの音高をていねいにゆっくり繰り返し学習させたことが効を奏した。このことは,反復学習が聴奏・視奏の能力を強化することを追認している。(2)2名の言語報告により,それぞれの内面で未熟だった音高認知機能が,変化・向上したことが認められる。特に,小畑などが言う内的フィードバックが出現する過程を示した。 本年度の研究は,上記2点を,「聴奏・視奏システム」を用いた実践によって,より端的に明確に示している。「聴奏・視奏システム」を用いた実践が,音の高低を聴き分ける能力が著しく未熟な人を改善する有効な方法となり得る可能性を示唆している。
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