2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21540114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保川 達也 東京大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (20195499)
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Keywords | 線形混合モデル / 小地域推定 / 高次元多変量解析 / 線形判別関数 / ブートストラップ / 信頼区間 / 情報量規準 / 漸近展開 |
Research Abstract |
23年度は,線形混合モデルにおける変数選択と小地域推定に関して,パラメトリック・ブートストラップ法に基づいた手法を提案した。線形混合モデルの変数選択問題においては,AICや条件付きAICのペナルティー項(補正項)は,テイラー展開を用いて導出されるので,分散成分に関する偏微分等を含むことになり,複雑なモデルに対しては計算が困難になってしまう。そこでテイラー展開を用いる代わりにパラメトリック・ブートストラップ法を利用した簡便な方法によりペナルティー項を導出し,得られた情報量規準の2次漸近不偏性を証明した。またその有用性を数値実験により示した。この問題(A)に関連して,経験最良線形不偏予測量(EBLUP)の平均2条誤差(MSE)の2次漸近不偏推定量と2次漸近補正をもつ信頼区間をパラメトリック・ブートストラップ法により導出し,その正当性を理論的に証明し,数値実験により有用性を示した。 次に,高次元の多変量解析の中心的な話題である判別分析に関して,共分散行列のリッジ推定量を用いた線形判別分析の誤判別に対する漸近展開を導出し,リッジ推定を用いたことによる有効性を示した。また誤判別率の2次漸近不偏推定量を導出した。大標本での誤判別率の漸近展開は非常に古くから研究されてきたが,次元が高くなると近似が悪くなることが知られてきた。また次元が高くなると共分散行列の逆行列の推定が不安定になるという問題点も知られてきた。23年度に行った上述の研究結果は,これらの課題を同時に解決するものであり,数値的にも従来のものよりかなり改善されていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,多変量データを解析するためのモデルにおいて従来の推測手法を改良する新たな統計手法を開発し,その新たな手法が従来の手法に比べて理論的に優越していることや有効性・最適性に関する理論の展開を行い,シミュレーション実験による数値的な比較及び現実のデータ解析での有用性を示すことを目的としている。具体的には,(A)線形混合モデルを利用した小地域推定,(B)多変量線形混合モデルへの拡張,(C)一般化線形混合モデルを利用した疾病地図の作成,(D)高次元多変量解析の展開,(E)多次元母数の推定における最適性理論の新たな展開,を扱うことを当初計画した。これまでは,(C)を除いて,研究課題を推進することができた。(C)は最近特に注目され活発に研究成果が報告されている分野であり,残りの研究期間において,研究課題の推進を図ることを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
線形混合モデルを利用した小地域推定において,1つの課題として取り上けられているのが,ベンチマークの問題である。例えば,大規模な標本調査に基づいて全体平均の推定が行われるとき,この推定値は十分なデータ数に基づいているので安定した推定を与えることが期待される。この同じデータを用いて小地域の推定を行うときには,小地域でのデータが十分に与えられていない場合には標本平均では推定誤差が大きくなってしまうので,最良線形不偏予測量などの縮小推定量が用いられる。ここで問題になるのが,小地域の縮小推定量を合算して全体平均の推定を行ってみると,全体の標本平均に一致しないという点である。これを補正するために,小地域の縮小推定量を,合算したものが全体平均に一致するように調整する必要がある。これをベンチマーク問題という。今後は,このベンチマーク問題を線形混合モデルにおいて考察していくとともに,研究課題の1つである,一般化線形混合モデルの枠組みで疾病地図の作成に関しても研究を推進していく。
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