Research Abstract |
本研究では,空間内の領域の境界の一部の形状が未知であるとき,形状が既知の境界の一部分(以下,観測面)で得られる温度(温度を表す放物型方程式の解の境界値)データから未知形状を推定する逆問題を,考察の対象としている。放物型方程式の境界条件は,未知境界部分ではディリクレ,観測面ではノイマンの混合型境界条件とする。この逆問題における未知形状の一意同定性(考える観測データから形状が一意に定まること)については,研究協力者の土谷正明氏との共同研究により以下の結果(以下[KT])を得た:「放物型方程式の初期値が0で,時間変動する未知境界が,1)C^1級である場合,2)多面体である場合,3)単一の座標系におけるリプシッツ連続関数のグラフとして記述できる場合,のいずれかであれば,一意同定性が成り立つ。(時間変動しない場合には,未知境界は単にリプシッツ連続であれば良い。)」この結果は土谷氏との共著論文として発表した(Inverse Problems vol.26,2010年12月)。この結果は21年度当初に行った考察をもとに,21年度中にその不備を修正し,さらに22年度において追加的考察を行って得たものである。この結果を得るためには,時間変動しない領域を扱ったK.Bryan and L.Caudill,Electronic J.Diff.Eqns.,C 01(1997)pp.23-29のアプローチにならい,2つの時空領域の差集合(に類するもの,以下単に差集合)を考え,その上で解析を行った。この方法は,時間変動する領域について,S.Vessella,Inverse Problems,vol.24,pp.1-75も用いている。[KT]における上記の結果を得るために行った考察により,この差集合の幾何学的性質が,当初考えていたものよりかなり複雑なものであることが明らかとなった。この点に関しても[KT]に詳述した。
|