2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21540264
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
畑 浩之 京都大学, 理学研究科, 教授 (70164837)
|
Keywords | 弦理論 / 弦の場の理論 / タキオン凝縮 / Chern-Simons理論 / winding number / 古典解 |
Research Abstract |
本研究は、弦理論の非摂動論的定式化の一つである「弦の場の理論(=String Field Theory=SFT)」に関わる本質的/原理的な諸問題・課題を包括的に研究し、SFTがこれからの弦理論の新しい物理を切り開く突破口を与えることを目指すものである。平成23年度は、Wittenにより提唱された開弦の場の理論であるCubic String Field Theory(=CSFT)の位相的構造の解明に向けた研究を行い、更なる発展につながる重要な成果を得た。すなわち、i)DCSFTは3次元の場の理論であるChern-Simons理論(=CS理論)と代数的にほぼ同一の構造をしていることと、ii)CS理論において形式的にゼロの有限ゲージ変換として与えられる古典解に対してその作用が3次元空間からゲージ群への「巻きつき数(winding number)」という位相的量で与えられることに注目し、CSFTにおいても古典解の作用が(ある量を単位として)整数に値を取る「巻きつき数」という解釈が可能な位相的量として与えられるかの研究を行った。CSFTにおいては、D25ブレインが消滅した状態(タキオン真空)を表す古典厳密解が2005年頃にMSchnablにより与えられたが、この解は形式的にはゼロの有限ゲージ変換UQ_B(1/U)の形(pure-gauge)をしている。そこで、私と共同研究者(小路田俊子=大学院生)は、1)古典厳密解の作用を、形式的にはゼロと見なせるような、位相的量として表現し、2)次に、その具体的な値を、Y.Okawa等により発展されたKBc代数の手法を用いて評価することに成功した。その結果、a)タキオン真空解UQ_B(1/U)および2枚のD25ブレインを表す解(1/U)Q_B Uに対しては、巻きつき数Nが、それぞれ、N=-1,+1という整数になるが、(1/U)^nQ_B U^nという(n+1)枚のD25ブレインを表す解に対してはNが一般に非整数となること、b)これは巻きつき数の加法性N[UV]=N[U]+N[V]が一般に破れていることを意味するが、破れ項を位相的量として与えて評価し、更に、c)巻きつき数が非整数となる古典解が、実は、強い意味の運動方程式を満たさないこと、すなわち、運動方程式と解自身との内積がゼロでないこと、を発見した。特に、c)の性質は、古典解がある意味でpure-gaugeではないことを意味しており、a)の発見がCSFTにおける巻きつき数の存在を否定するものでない。しかし、整数の巻きつき数を持ち、かつ、強い意味の運動方程式を満たす古典厳密解の構成が、CSFTの位相的構造の解明のためにまず必要であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」においては、弦の場の理論の過去の研究において未解明のまま残されてきた基本的・原理的課題をいくつか挙げたが、平成23年度の研究では、これまであまり注意が払われなかった「Cubic SFTの位相的構造の解明」という新しい観点からの研究に取り組み、重要な成果を得た。このテーマは、新しいものではあるが、「研究の目的」に挙げた、「(4)弦の場の理論における物理量の一般的構成」に分類されるべきものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、本研究の最終年度であるが、平成23年度に得た「Cubic SFTの位相的構造の解明」に向けた重要な成果をもとにし、これを足掛かりに更なる進展を目指す。特に、巻き付き数が整数であり、かつ、強い意味の運動方程式を満たす古典厳密解の構成、さらに、巻き付き数を一種の「表面積分」として表す「SFTにおけるStokesの定理」の構築、がまず考えられる。また、「研究の目的」に挙げた他の課題に関しても、問題意識を持ちつつ上記の研究を進める。
|