2010 Fiscal Year Annual Research Report
グラフェンがもたらす量子輸送現象と相対論的場の理論の新たな接点
Project/Area Number |
21540265
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
静谷 謙一 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (50154216)
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Keywords | 場の理論 / 量子輸送現象 / ナノ材料 / グラフェン / サイクロトロン共鳴 / 集団励起 / 量子異常 |
Research Abstract |
この数年グラフェン(graphene)と呼ばれる炭素の一原子層からなる新物質の物性に実験・理論両面から強い関心が向けられている。グラフェンは質量ゼロのディラック粒子のように振る舞う電子を伝導帯と価電子帯にもつ"相対論的な"2次元電子系であり、"相対論的"な量子現象を身近な物性系で検証・研究する希有な機会を提供する。このような状況を踏まえて、研究代表者は平成22年度には、相対論的場の量子論に固有な真空の量子的な性質やゲージ量子異常に由来すると考えられるグラフェンの諸特性を探求した。その内容は以下の通りである。 1. 赤外光を用いてグラフェンのサイクロトロン共鳴を観測する実験では、グラフェンに固有な相対論的なスペクトルが確認されているが、同時に小さい有意なずれも観察されている。通常の量子ホール系と異なりグラフェンにはKohnの定理が適用できないので、このずれは多体効果の現れとも考えられる。昨年度には、このずれを電子間相互作用による速度の繰り込みの効果として説明する論文を発表した。その際、(単層)グラフェンの実験結果はよく説明できたものの、二層系については有意なずれが残った。実は別の実験から二層系グラフェンは(構造的な)弱い電子・ホール非対称性をもつことが指摘されているので、今年度はこの非対称性を考慮に入れた二層系のサイクロトロン共鳴の再吟味を行った。その結果、理論と実験の一致に改善がみられると共に、(前年度の研究対象の一つでもあった)二層系に特有な擬ゼロモード準位の構造について新たな示唆が得られた。目下、論文を投稿中。 2. 一般の読者・研究者向けの雑誌、数理科学に「くりこみとスケール不変性の量子的破れ」と題する小論を書いた。特に、保存則の微妙な破れが自然現象に奥行きをもたらす事例について解説した。
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