2010 Fiscal Year Annual Research Report
クラスレート化合物のゲスト原子の微視的運動状態の解明
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21540328
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
高須 雄一 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (40306494)
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Keywords | クラスレート化合物 / 熱電材料 / カゴ状構造化合物 / ラマン散乱 / 非調和振動 / フォノン物性 |
Research Abstract |
本研究で対象としている熱電変換物質は,熱(温度差)を電気に直接変換できる。そのため,新しいエネルギー源として近年盛んに研究が進められている。高い効率で熱から電気に変換するためには,高い電気伝導率と低い熱伝導率の実現が不可欠である。I型クラスレート化合物は,低い熱伝導率を示す新しい熱電変換物質として注目されており,堅固なホストケージとその中に緩く束縛されたゲストイオンからなる構造をもつ。先行研究より,I型クラスレート化合物の熱伝導率の温度依存性(κ(T))は結晶の組成により大きく異なることが分かっている。特に強いゲストイオン依存性が観測されており,カゴ内のゲストイオンの非調和的な振動が,熱を伝える音響フォノンを散乱して格子熱伝導率を低下させていると考えられてきた。本研究の目的は,クラスレート化合物におけるゲストイオンの微視的運動状態を明らかにすることであり,この研究によりクラスレート化合物における熱伝導率の抑制機構の詳細が明らかになり,次世代の高効率熱電変換物質の設計指針を与え得ることが期待される。平成22年度は,K_8Ga_8Sn_<38>, Eu_8Ga_<16>Ge_<30>,およびII型クラスレート化合物K_8Ba_<16>Ga_<40>Sn_<96>を対象にして研究を進めた。K_8Ga_8Sn_<38>では,ゲストイオンの微視的な運動は調和的かまたは極めて弱い非調和性を示すことが分かった。実際,構造解析によりゲストはカゴの中央に位置することが分かっており,κ(T)は抑制されない。Eu_8Ga_<16>Ge_<30>では,ゲストイオンはカゴの中央からずれた位置を周回するような振動をしており極めて強い非調和性が見られる。この系に物理的な圧力をかけるとカゴの収縮に伴いゲストイオンの存在位置に変化が生じることが期待される。ダイアモンドアンビルセルを用いて数GPa程度の圧力を印加して「圧力下偏光依存ラマン散乱実験」を行なった。圧力媒体には水を用いた。その結果,圧力の増大に伴いゲストイオンの特徴的な2つの振動エネルギーの差の減少を観測した。これはカゴのポテンシャルの非調和性が弱くなったと解釈できる。II型クラスレート化合物K_8Ba_<16>Ga_<40>Sn_<96>は新しく単結晶合成に成功した試料であり,初めての偏光依存ラマン散乱実験を行なった。以上,3点の結果については現在解析中である。
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Research Products
(3 results)