2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21540381
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
|
Keywords | 物性基礎論 / 統計力学 / 量子ダイナミクス / 磁性 / 量子古典対応 / 場の理論 / 相転移 / 電子スピン共鳴 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、量子スピン鎖のダイナミクスと、非線形シグマ模型の定量的な比較を進めた。特に、S=1量子スピン鎖における単一イオン異方性の効果を摂動論で扱ったとき、マグノンの相互作用を無視する近似は低温・低エネルギー極限においても不適切であることを明確に示した。マグノンの相互作用を非線形シグマ模型の厳密なフォームファクターによって扱い、これが異方性項の相関関数の漸近系を正確に記述することを数値計算との比較で確認した。これにより、さまざまな物理量の、単一イオン異方性の1次の範囲で厳密な表式を得ることに成功した。これを単一イオン異方性を持つS=1量子スピン鎖の動的構造因子やESRシフトなど実験で観測可能な量に適用し、数値シミュレーションや実験データと良い一致を確認した。一方、解析的な摂動論と有限温度密度行列くりこみ群の組み合わせによって、S=1/2ラダー系のESRシフトを全温度範囲で定量的に求め、BPCBにおける異方性パラメータの同定に成功した。 また、トポロジカル絶縁体に磁化イオンをドープした系など、磁気電気効果を持つ磁性体の電場下における挙動を解析した。このような系は、素粒子理論で提案されたアクシオン場の理論と数学的に同じ理論で記述することができる。素粒子理論の近年の研究で、アクシオン場は電場のもとで不安定性を有することが示されていたが、その物理的意味や最終的な帰結は明らかではなかった。そこで、磁気電気効果を持つ磁性体について強い電場下での挙動を調べたところ、臨界電場で相転移が起きて自発的に磁場が生成されることがわかった。電気磁気効果は場の理論におけるトポロジカル項に対応する。トポロジカル項は一般に量子効果を記述するとされるが、上述の相転移自体は基本的に古典的な枠組みで理解できる。この点で、量子系と古典系の対応に関して興味深い例にもなっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初想定していた量子スピン鎖のダイナミクスの問題については、非線形シグマ模型に基づいて量子系と古典系の対応や差異を明らかにすること、ま実験とも比較できる定量的な予言を行うこと、など順調に進展した。一方、磁気電気効果を持つ磁性体が強電場下で示す相転移は、素粒子理論との間で行われた予定外の研究であるが、興味深い結果を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
量子スピン系に比べ簡単だが量子古典対応の理解が進んでいない、少数スピンのクラスター系についての理論を進展させる予定である。
|
Research Products
(7 results)