Research Abstract |
本研究では,ゼノフィオフォアの1)資源利用や他の微小生物の生息場所としての生態学的な意味,2)白色と黒色を呈する2種類の細胞質の機能的な違いや部位ごとの元素濃集の意味とその役割,3)有孔虫類の初期進化,を明らかにすることを目的とした。本年度は,(1)アミノ酸窒素同位体による栄養段階の推定,(2)共存する後生動物の栄養段階推定,(3)有孔虫細胞の細分化と特殊化について,観察と分析を行った。分析には,日本海溝のS2サイト(39゜06'N,143゜53'E, 5349m)で採取したゼノフィオフォア(Shinkaiya lindsayi)を用いた。 (1)ゼノフィオフォア細胞のうち,黒色の細胞質のアミノ酸窒素同位体比(フェニルアラニンとグルタミン酸の窒素同位体)から栄養段階(ATL)を決定し,その値は1.1となり一次生産者と同等の値を示した。 (2)S2サイトに共存する刺胞動物門の八放サンゴとシンカイスナギンチャクのATLは,それぞれ2.6,3.6であった。 (3)対照群とした浅海性有孔虫では,食胞の密度や大きさ・盗葉緑体の有無など,細胞の細分化や特殊化が有孔虫細胞に観察できた。 単細胞真核生物は,バクテリアと動物を繋ぐ重要な生態的な位置にあるが,食物連鎖構造の解析はほとんど行われていない。本解析で得られた(1)と(2)の結果は,深海帯での単細胞真核生物の生態的な役割を解釈する上での一助となる。黒色の細胞質は,餌として濾しとった堆積物残渣を溜めている。一方,白色の細胞質には,原形質が密に存在することから,黒色の細胞質に比べて高い栄養段階が示唆された((1)と(3))。深海帯は,表層からのフラックスの集積場であることを考えると,フラックスを利用するゼノフィオフォア細胞は,ATLが2あるいはそれ以上の値を示す可能性が高い。黒色と白色の細胞質の栄養段階を明らかにすることで,個体・細胞内での物質の流れを理解することができる。
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