Research Abstract |
残された課題の一つは,前年度にアミドなどの有機化合物水溶液の赤外分光測定で見つけた,奇妙な水形成の機構解明である.水素結合供与性が純水に比べて低くなるにもかかわらず,水分子の回転,並進の自由度が低くなる.これは混合によるΔH^<excess>とΔS^<excess>を負にするので,疎水性水和を分子のレベルで現象的に説明するが,前年度の計算では,ν(O-H)の高波数シフトを得られたが,ν(H-O-H)の高波数シフトが得られていなかった.水36(前年は30)個の集団と,(ジメチルスルポキシド12+水24)について精度を高めて計算した結果,水分子の2個のO-Hは2.0個のO-H…Ow形成から,1-1個のO-H…Owと0.5個のO-H…O=Sに変化し,水の酸素は1.2個のO-H…OH_2と1.9個のC-H…OH_2を形成していた.この時,ν(O-H)とν(H-O-H)は共に混合前よりも高波数シフトして,実験を再現できた.MDで平衡化したのみでは全く再現できなかったが,第一原理に基づいた量子力学的な計算によって,弱い水素結合の形成が"奇妙な水"形成の原因になっていることを示すことができた.課題とした「THz分光法によるC-H…OH_2分子間振動スペクトルの観測」に先だって,DMSOの二量体中に形成されるC-H…O=Sの弱い水素結合を観測できたが,水との二成分系の実験は間に合わなかったので,引き続き測定を行う. 重要な課題はアミノ酸誘導体についての実験であるが,アラニン,バリンのCH_3-CONH-CHR-CONH_CH_3で示されるペプチドについてこれまで使ってきた有機化合物と同様の赤外測定を行った.アラニンペプチドについては,側鎖のメチル基が疎水性水和に関与する機構が弱い水素結合形成に基づくことを確認できた.バリンペプチドでは,溶解度が不十分で,再現性の良い実験結果が得られなかった.
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