2011 Fiscal Year Annual Research Report
生体内多核遷移金属錯体の電子構造、化学反応性および機能発現に関する理論的研究
Project/Area Number |
21550014
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Research Institution | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
Principal Investigator |
山口 兆 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー (80029537)
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Keywords | 生体内多核遷移金属錯体 / 電子構造 / 化学反応性 / p-450 / CaMn_4O_5クラスター / OEC / 光合成PSII / 水分解反応 |
Research Abstract |
本年度は2010年8月の北京での光合成に関する国際会議で岡山大学の沈教授と大阪市立大学の神谷教授のグループにより発表されたPSIIの1.9Åレベルの解像度のX線結晶構造解析結果に基づき水分解触媒中心であるCaMn_4O_5クラスター(1)の電子・スピン状態を求めた。1はMn原子を4個含み、各Mnイオンは局所的には高スピン状態であるのでその組み合わせより全体として8個のスピン配置を持つ。さらにMnイオンの価数がKokサイクルと言われる水分解サイクルで順次変動していくので必要な混合原子価状態を全て考慮する必要があった。この結果、1では総計で128個のBSD FT解が存在するのでまずそれらの全ての解をUB3LYP法で求めた。次に、此れ等のBSD FT解は全体として高スピン状態にある場合を除き、スピンの混ざりものを含むので研究代表者らが開発した近似射影法(AP)法を4核錯体系に拡張した。また、AP UB3LYP法で得られたエネルギーレベルが実験の傾向を再現出来ない場合には使用する汎関数をHF成分を20%以上含む強相関電子系に適するものに変更した。しかし、1.9Åレベルの解像度のX線結晶構造解析では酸素の位置は特定可能であるが、水素原子の位置が特定不可能であるので実際にはそこに酸素ジアニオン、ヒドロキシアニオン、水が存在するのかについては判別不可能である。一方、理論計算ではエネルギー勾配法を用いて構造最適化が可能なのでこれらの3つの可能な構造を仮定して構造最適化を行い、X線結晶構造解析の結果と比較検討することにより配位子の状態を推定した。特に、沈・神谷らの結果によるとCaMn_4O_5クラスターのMn_1-X-Mn_4の部分でMn_1-X,Mn_4-Xの距離が2.6,2.5(Å)であり、Xが酸素ジアニオンと仮定すると従来知られている結合距離よりかなり長くなっている。そこで、Xを酸素ジアニオンおよびヒドロキシアニオンに仮定した構造最適化計算を行ったところ、ヒドロキシアニオンと仮定した方が実験と良く一致した。このように、理論計算に基づく構造最適化も信頼出来るX線結晶構造解析の結果から出発すると最終的に妥当な水素原子を含むクラスター構造を与えることが判明した。
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