Research Abstract |
微量金属は酸化状態や化学形によって環境中での移行,生物による取り込み及び毒性が大きく異なることが知られており,化学種分析(スペシエーション)が必要である。しかし,不安定な化学種の定量は一般の検量線法では容易ではない。安定同位体を用いる新しい不足当量分析法では,同位体希釈の原理に基づき目的化学種の定量的な回収も検量線も不要であり,スペシエーションに適した絶対定量法と考えられる。研究初年度は,銅(I,II)及びアンチモン(III,V)を取り上げ,基礎検討として,それぞれの化学種の溶媒抽出あるいはマイクロ流体抽出を中心に研究した。 1)水溶液中で銅(I)がグルタチオン(GSH)錯体として安定に存在することを見出した。大気中で1x10^<-3>MのGSH共存下で調製した銅(I)水溶液は,pH7.4で7時間まで変化は見られなかった。また,pH2.7-7.4で銅(I)-2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン錯体として,1,2-ジクロロエタンに定量的にイオン対抽出することができた。この他,マイクロチップを用いたマイクロ流体抽出法によってジオクチルジチオカルバミン酸による銅(II)の抽出速度を研究し,速度定数に対する水相中の銅(II)の溶存状態の影響を明らかにした。 2)アンチモン(III)の選択的分離系としてN-ベンゾイル-N-フェニルヒドロキシルアミン抽出系を選び,溶媒,試薬濃度,pHなどの最適分離条件を確認した。^<123>Sb濃縮同位体を用いて20倍量のアンチモン(V)を含むアンチモン(III)試料に本法を適用して,III価の同位体希釈定量を行い精確さを確かめた。一方,アンチモン(V)の選択的抽出系としてピロガロールとトリオクチルアミンを用い,溶媒,試薬濃度;硫酸濃度,振とう時間などを最適化することにより,V価のみを定量的に分離・回収できることを確認した。
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