Research Abstract |
Pd触媒を用いるクロスカップリング反応の研究において,近年,触媒の活性と寿命を両立する機能性配位子の開発に多くの注目が集まっている。我々も最近,新規機能性配位子として2つのかさ高いターシャリーブチル基と下部のCp環にパラジウムに分子内π配位が可能な配座を持つビフェニレンを持つルテノセニル基が置換したボスフィン配位子(R-Phos)を設計,開発し,さらにR-PhosとPd(dba)_2から調製したPd触媒が,鈴木-官浦反応において,安価な反面,反応性の低い塩化物の中でも特に電子的あるいは立体的に不活性化された塩化物を用いる反応においても,低触媒量,短時間で反応を完結する優れた触媒であることを報告している。本研究では,R-Pbosの高いパラジウム触媒活性化機能の解明とより優れた配位子の開発を目的に,R-Phosのジシクロヘキシル誘導体CyR-Phosの触媒活性化機能と基質一般性を調べ,昨年度までに立体的に不活性化され通常の触媒では実現が困難な2,6-ジメチルクロロベンゼンとオルトトリルホウ素酸とのカップリングが,現在報告されている最も高い値を上回る触媒回転数および触媒回転速度で完結することを明らかにしている。この知見を踏まえ,今年度はオルト2置換クロロベンゼンの基質一般性を精査したところ,極めてかさ高い2,6-ジイソプロピルクロロベンゼンからも種々のオルト3置換ビアリールが高収率で得られ,立体的に込み入った芳香族ハロゲン化物に対する本触媒の極めて高い活性が明らかになった。また,本触媒はアルコキシ基やアミノ基など強い電子供与基によって電子的に不活性化されたハロゲン化物に対しても従来に無い高い活性を示した。CyR-Phosの高いパラジウム触媒活性化機能を明らかにする目的で,対応するホスフィンゼレニドのリン-ゼレン結合定数を測定しCyR-Phosの塩基性を見積もったところ735HzとPh_3Pとほぼ同じ大きさであり際立って高くはないことが明らかになった。一般に配位子は配位性原子の塩基性が高い程パラジウム触媒活性化機能が高いと考えられていることから,CyR-Phosのパラジウム触媒に対する極めて高い触媒活性化機能は,少なくともホスフィンの塩基性によって誘起されているのではなく,立体的特徴によって誘起されていることが明らかとなった。次年度では,触媒活性を誘起する立体的特徴の特定を目指す。
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