Research Abstract |
分子がキラリティを持ち,その分子鎖がらせん構造を描くL型ポリ乳酸(PLLA)は,強誘電性高分子ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に匹敵する大きな圧電率を有している.その上にPLLAは透明で柔軟性に富む植物由来の高分子材料であることから,「環境に優しいフレキシブル透明圧電薄膜」として,モバイル機器への応用が現実のものとなりつつある.しかし,モバイル機器用途に展開をするためには,課題も多い.特に,PLLAの圧電性の欠点は,モバイル機器に耐えうる80℃程度までの耐熱性(ガラス点移転Tg~60℃)に劣る点にある.一方,ポリ乳酸(PLA)のステレオコンプレックス(SC)結晶は融点がPLLAより50℃以上も高いとされる.高分子科学においては同一物質群で融点が50℃前後も変化することは驚異的であり,注目を集めている.ここでSC結晶とは,光学異性体同士が作る結晶である.そもそもPLAはキラル高分子であるので,光学異性体(L体とD体)が存在する.このL体とD体の間の相互作用はL体間またはD体間よりも強く,その結果として,SC結晶を形成するとされている.我々は,SCを含むPLLAフィルム(SC/PLLA film)を独自の方法で作成し,力学的電気的特性を追及した.PLLAにSC結晶をコンポジットすることで圧電率の温度依存性を改善することができた.また,原子間力顕微鏡(AFM)を用い,高次構造を観察すると,SC/PLLA filmでは,PLLA film中で大きく発達している構造体が,小さな構造体に変化し,より均一化していることが分かった.
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