Research Abstract |
デバイス製造用のシリコン結晶に含まれる原子空孔は,デバイス特性を大きく左右するため重要視されてきたが,その濃度を測定する方法は存在しなかった.超音波計測法によって観測される低温弾性ソフト化の大きさΔCは原子空孔の濃度[V]に比例する.この比例定数xの値を定められれば,測定されたソフト化の大きさから原子空孔濃度の値を[V]=xΔCとして求める事ができる.この方法を確立するのが本研究の目的である. この実験を成功させるためには,できるだけ高い温度Tの熱平衡原子空孔を実現し,それを急冷凍結する必要がある.このために,本研究では一辺の長さが2-3mmの比較的小さなブロック状試料を採用した.熱処理には,炉内雰囲気(アルゴン)が外界から遮断されるような密閉式横型電気炉を用いた.熱処理温度としては,当初計画のうちの1240℃,1160℃と1100の場合を試みた. その結果,熱処理によって試料表面が酸化することが判明した.電気炉自体の密閉性と高温部材の純度は実証できているので,雰囲気ガスの純度が低いためか,電気炉のガス配管のつなぎ込みに原因があるものと断定した.これを大学の実験室という状況において解決するのは困難である.急冷処理も,試料の引きだし速度を変えながら試したが,最大の引き出し速度の場合でも未だ原子空孔濃度は飽和していない(凍結しきれていない)もようであり,試料引き出し棒などの熱容量を減らす必要があることが判明した.結果として,現状の実験装置と環境ならびに熱処理条件では,外部汚染を防止しつつ熱平衡原子空孔を実現し,それを急冷凍結することは困難であるという結論に達した. そこで,より本質的かつ合理的である試料急冷を実現するために,現状のブロック状試料から通常のデバイス製造用300mmウェーハから切り出した厚さの薄い試料でも超音波測定ができるような条件を見出した.それは,これまで測定していたC_<L[111]>という弾性定数ではなく,C_<11>という弾性定数を測定ができるようにしたことによる.このように,試料として普通のデバイス製造用ウェーハを使えるようにできたことで,今後の実験においては,高温加熱と速やかな冷却を実現できる半導体製造用のプロセス装置(RTA装置:Rapid Thermal Annealer)がフルに使えるようになった.今後の実験では,同じ方針(実験原理)を維持しつつも,半導体ウェーハメーカと協力しながら,RTA装置によって,熱平衡原子空孔を凍結させた試料を作成する事を計画している.
|