Research Abstract |
昨年度はITO基板上に真空蒸着した低分子フタロシアニン(H_2Pc)薄膜について,その電流容易軸を基板面に対して立たせることに成功した。立たせるための秘訣は2つあることがわかった。一つはITO/H_2Pc間にペンタセンの薄い膜を挿むこと,もう一つはITO基板表面をあらかじめしっかり磨いて,表面の平均粗さを1nm以下にしておく,ということである。今年度は高分子フタロシアニンAlPcFについて同様の配向を得ることを目指して研究を行った。まず最初に,昨年と同様ITO/AlPcF間へのペンタセン層挿入効果を調べた。しかし,ITO表面粗さが0.6nmになるまで磨いても,AlPcFの電流容易軸を基板面に対して立たせることはできなかった。次に,挿入層としてペンタセン/H_2Pc二層膜を用いた。H_2Pcの電流容易軸はペンタセン膜上で立つことがわかっているので,H_2Pcの配向につられてAlPcFの電流容易軸も立つのではないか,と考えたのである。しかし,この方法でも目指す配向は得られなかった。そこで今度は,ペンタセン/H_2Pc挿入層の上に,さらにH_2PcとAlPcFの共蒸着層を挿入した。共蒸着すればAlPcFはH_2Pcの影響を強く受け,目指す配向を得ることができる,と予想したのである。しかし,この試みもうまくいかなかった。以上の結果から,AlPcFはH_2Pcとは配向の性質がまったく異なる,ということがわかった。この違いは,AlPcF高分子軸の末端にF原子が存在していることによる,と考えられる。すなわち,F原子が障害となって基板との相互作用が妨げられ,電流容易軸が立ちにくい,と推測される。来年度は,まず,もう一つの高分子フタロシアニンGaPcFについて電流容易軸を立てる試みを行った後,AlPcFやGaPcFを用いた太陽電池を作製し,その特性を調べる研究に移行する。
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